002 最強の冒険者

 中世のヨーロッパの様な町にあるギルドの中。

 俺は、泣いていた。

 パーティーを追放されて、夢をかなえられなくなってしまったのだ。

 そんな俺を見て、笑うギルドの冒険者たちとトテーボ。

 状きょうは、最悪だった。

 そして、俺が絶望を感じていた時だった。


「うわぁー。すごさわぎだねぇー。みんなぁ、何してるのぉー??」


 さわがしいギルドのとびらが開き、誰かが入ってきたのだった。

 一瞬いっしゅんにして、うるさかった笑い声は消え、ギルドが静まり返った。

 それが自分のせいだと分かったのか、その人はみんなに話しかけた。

 

「あ‥‥‥あれぇー?? もしかして僕、お邪魔じゃまだったぁー?」


 静かなギルドの中に、その人の声だけがひびく。

 すると、野次馬のうち1人がさわぎ出した。


「あ、あれはまさか……いや間違まちがいない。

 Sランク冒険者のシュトラール様だ!!!!!!!!!」


「な、なにぃぃぃぃ!? 聖のウィザード。シュトラール様か!?」


「あの伝説のSランク冒険者がなぜここにぃぃぃぃぃ!?」


「うっっっっっそ!!

 私、Sランクパーティー聖天せいてんつばさのチョーーーーーーーーファンなんですけど!!」


 まさかのSランク冒険者の登場。

 俺を囲んでいた野次馬どもは一斉いっせいにその人を取り囲んだ。

 そして、おどろく人、喜ぶ人、泣き出す人。

 『シュトラール様』だと分かった途端とたんに、ギルドが大混乱におちいったのだった。


 俺も、こんな状態でなければ興奮していただろう。

 だが、たった今俺は追放されたばかり。

 夢だったSランク冒険者になれなくなった今、その人を見ても悲しくなるだけだった。

 

 俺は、みんながシュトラール様に釘付くぎづけになっている間にギルドを出ようとした。

 しかし、とびらの方では人のかべが出来ていた。

 それでもさわいでいる人の間をすりけて、一生懸命に歩いた‥‥‥のだが。


「うわあぁぁ!!」


 俺は、野次馬やじうまどもが多すぎて強く押されてしまった。

 そして、


ドンッ!!!!! 


 誰かに思いっきりぶつかり、転んでしまった。

 頭を下げていたせいで、前が見えなかったのだ。

 俺は、急いでぶつかってしまった人にあやまった。


「す、すみません‥‥‥」


 すると、


「あれぇー?? 君ぃ、大丈夫かなぁ? 立てるぅー?」


 俺は運が良いのか悪いのか。

 よりによって、シュトラール様にぶつかってしまったようだった。

 しかし、シュトラール様はぶつかった俺に手を差しべてくれた。

 そして、話かけてくれたのだった。


「君ぃー。お名前なにぃー?」


 立ち上がる瞬間しゅんかんに投げられた、突然とつぜんの質問。


(え? お、俺??)


 俺は当然、戸惑とまどう。

 しかも、差しべられた手をにぎったまま硬直こうちょくしてしまった。

 そんな俺を、ニコニコと無邪気むじゃきな笑顔で見つめてくるシュトラール様。

 さらに、それを見ているトテーボと野次馬やじうまども。

 ギルドは再び静まり、不思議な空気が流れた。


 だが、それも一瞬いっしゅん

 野次馬やじうまどもが次々に自分の名前をさけび出した。


「俺様はトテーボだぜ!」


「自分、ミーゴっす!」


「私はホアですわ!!」


「僕、カーバです!!!」


 みんなの名前を聞いたシュトラール様は笑った。


「アハハハハ! みんなぁ、元気だねぇー!」


(あ、なんだ……俺に名前を聞いたわけじゃなかったのか)


 俺は、シュトラール様が自分に名前を聞いてきたと思った事がずかしかった。


(そうだよね……俺の名前なんて聞くわけがないか)


 そう思った俺は、ギルドを出ようとした。

 もう、ここにはなんの用事もないから。


 そうして、立ち去ろうと思ったその時。

 俺は硬直こうちょくしたまま、手をにぎっていたのを思い出した。

 ハッと思い、手を放そうとしたのだが、なぜか手がはなれない。


 どんなに力を加えても無駄むだ

 やはりはなれない。

 シュトラール様が、ニコニコしながら手を強くにぎってくるのだ。


「あ、あの‥‥‥すみません、手‥‥‥」


「んー?? なにぃ??」


 シュトラール様はわざとか、俺の手をにぎり続けている。


(何だろう? なんで俺の手を放してくれないんだ?)


 すると、それを見ていた野次馬やじうまどもが再びさわぐ。


「おいてめー!! 早くシュトラール様からはなれろよ!!!」


雑魚ざこの分際で、なにシュトラール様の手をにぎってんだよ!」


「そうよ!! 私のシュトラール様にさわらないで!!!」


 野次馬やじうまどもは、そうだそうだと、次々に罵声ばせいを飛ばしてきた。

 だが、シュトラール様はそんなやつらを無視して、今度は大きな声で話しかけてきた。

 もちろん、手は放してくれない。


「君ぃー! お名前はぁ?」


 今度は、誰がどう見ても俺に話しかけてきている。

 それに少しテンパった俺だったが、深呼吸をして心を落ち着かせて答えた。


「レオン・ノワールです」


 そう言うと、シュトラール様の表情はパアっと明るくなる。


「そうかぁー! レオン君ねぇー! じゃあーレオッチだぁー!」


 ウンウンとうなずくシュトラール様。

 その光景に、さっきまでうるさかったトテーボと野次馬やじうまどもはだまむ。

 俺も、意味が分からなかった。

 

(よ、よくわからない人だな‥‥‥)


 俺は、そう思った。

 だがシュトラール様は、俺が困惑こんわくしている事に気づかないのか、突然とつぜん


「ねぇねぇ! レオッチさぁー。僕のパーティーに入ってくれないかなぁ??」


「……え!?!?」


無邪気むじゃきな笑顔のまま、とんでもないことを言い出したのだった――

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