第51話 念願の相手
「くくく、ははは」
ローワンが腹を抱えて笑い出した。
「お前、あの弱っちいギルドの家族だったのかよ。しかも死んだらギルドから金が入る? 随分優遇されているじゃないか。命を張っている俺たちよりもよ!」
「いや、俺も一員だった!」
ジャーデンは、笑ってバカにするローワンを睨みつけながら攻撃を仕掛ける。
「おっと! そんな攻撃で俺を倒そうだなんて、笑わせるなよ。モンスターの掃除屋がよ!」
――そう、回収ギルドは、モンスターの掃除屋と呼ばれていた。
その数、ざっと100件もあるギルドだ。
なので、回収場所はおのずと決まっていた。4、5人でチームを組み一日に数回同じ個所を回ってモンスターの死体を回収する。
ギルド員は、一般人がほとんどでジャーデンはギルド員になって一か月ほど経ち、初めて回収作業に加わる事になった。
それまでは、討伐ギルドと一緒に森に入りボーンラビットを倒す訓練を受けていたのだ。
彼が担当するルートは、ボーンラビットのエリアで、生きたボーンラビットに遭遇する可能性がある為、一か月は足腰を鍛える為にも狩りをさせられていた。
そして、自分の家族とマダリン姉妹の両親の
「こりゃまた、張り切って討伐した者がいるようだな」
ジャーデンの父親が、ボーンラビット死体の海を見て言った。今までこういう光景には遭遇した事がなかったのだ。なぜならここまで死体が多いと、血の匂いで近くのボーンラビットが集まって来る。
一体ならなんなく倒せるボーンラビットも数がいれば倒すのが大変になるからだ。
冒険者は、単独で狩る事が多いうえに、怪我をすれば治療費がかかる為、こういう狩り方はしない。
討伐ギルドが狩りをする時は、回収ギルドと一緒に回るのが一般的だ。なので、こういう光景に出くわす事などない。
「ジャーデン達は、このボーンラビットの回収を頼む。俺たちは、ちょっと様子を見て来る」
女性達とジャーデンは、せっせとボーンラビットの回収作業をし、父親二人がコンパスに表示された赤い点を確認しに向かった。
もちろんこの時二人は、ボーンラビットの集団だと思ったのだ。赤い点が2つ。この数なら二人で倒せると思い向かってみれば、2体のウルフ!
あり得ない状況に二人は、息をのんだ。
この場所に大量に死体があったとしても、匂いを嗅ぎ付け来るとは思わなかった。なので、彼らのチームには討伐員は混ざっていない。そして、ルートを回る彼らは、帰還魔道具も持っていなかった。
つまりこの状況は、想定外だ。
「逃げろ!」
叫び声が聞こえジャーデン達が見れば、見た事もないモンスターがいた。見た目でウルフだとわかるが、逃げるしか方法がない。
だが自分達よりはるかに素早く動く彼らから逃げらるとは思えなかった。
「あ、あなた!」
「いいから逃げてくれ! 今、縛ってるから」
スキルで動きを封じていると言われ、絶対に人を呼ぶと全速力でジャーデン達四人は街へと走る。
ルートになっている道は、獣道ができていた。だから走りやすいが、ルートを通っては遠回りになる。なのでルートから外れ一直線に走った。
縛りのスキルは、重ね掛けが可能。だが相手が強ければ解かれる。なので、重ね掛けし強化し続けなければならない。2体いっぺんは無理で一体ずつ強化していく。そしてそれは、MPの消費が半端ないのだ。
マダリンとトリシャの父親は、動けないウルフを剣で殺そうと試みた。
だが攻撃をしてくる気だわかるとウルフは抗い、スキルを解いて攻撃を避け反撃。二人は地に倒れ帰らぬ人となった。
走っているジャーデンと三人の差が開きジャーデンが振り向くも、父親二人の姿が見える場所ではないので、惨劇は見えない。
「ジャーデン、私達の事はいいから先に行って!」
男のジャーデンは体力があり、女性の三人より速い。
「わかった。先に行ってる」
これが、生死の分かれ道だった。
まさかその後、母親達も襲われたとは知らずに一生懸命に街へ走り、ギルドに伝えるも母親達は戻ってこない。
嫌な予感がよぎり、それが現実になった時ジャーデンは後悔した。なぜ置いて来たのかと。
そして、あのウルフが偶然居合わせたのではなく、おびき寄せるような行為がされていたようだとも調査でわかった。
ギルドは、この事件を機にこういう事もあるかもしれないと、対策をする事になり、遺族保険金が支払われた。対策をしていれば、死ななかったかもしれないからだ。
ジャーデンは、犯人を捜す為に自ら冒険者になった。
借金がない彼は、順調にいけばCランクになれるがその前に探し出したかった。なのに、彼女達が冒険者になって驚く。
仕方がなく、陰で彼女達を守りつつ探す事にし、そして今念願の相手に出会ったのだ。
彼女達の心配はもういらないだろう。もし万が一、自分が死んでも彼女達を守ってくれる存在が出来たのだから。
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