第6話 計算外

 「スキルカルクナレ!」


 ――重さ-1を付与しました

 ――オプションがレベル3になりました

 ――マスターがレベル3になりまた


 「やったぁ。上がったぁ」


 *マスター

  *レベル3:スキル発動消費MPを1にする。また経験値を2倍獲得。アブソープションを取得(レベルアップ時、MP全回復)。

   次のレベルまで:オプションがレベルアップ時に一緒にレベルアップする。


 ”え? MPが全回復? それってMPが満タンになるってこと? マスターって凄い! オプションはどうなってる”


 *オプション

  消費MP:1(マスター効果)

  装備全般に有効

  成功率:52%

  オプションが付いているモノは上書きになる。

  *レベル3:素早さ+1/重さ-1/衝撃吸収+1

   次のレベルまで:2P/100P

   成功時4P、失敗時2P(マスター効果)


 ”衝撃吸収って何だろう”


 *衝撃吸収+1/このオプションがついているモノの受ける衝撃を和らげ、壊れにくくする。また、防御率を上げる。+1%

  発動条件:対象に触れながら『スキルショウゲキキュウシュウ』と発する。


 「……また1%。これオプションのスキルが上がったら%も上がるんだろうか? レベルを上げていけばわかるか。スキルカルクナレ」


 ――重さ-1に上書きしました


 ”なるほど。上書きの時は上書きってなるのか” 


 「スキルカルクナレ……」


 ――重さ-1に上書きしました


 「……あれ? 目が回る」


 ドサ。

 エストキラは、リュックを抱えたまま寝転ぶ。体に力が入らず、気が遠くなっていく。


 「おかしい。もしかしてMPが尽きた? 満タンになったんじゃなかったの……」


 エストキラは誤解していた。MPが全回復するのは、次にレベルアップした時からだ。最大MPは、レベルアップで増えていても消費したMPは戻っていなかったので、とうとう枯渇したのだった。

 そこに、エストキラに近づく数人の足音が聞こえてくる。その音さえ、エストキラには聞こえていなかった――。



 ◇



 じゃり。

 倒れたエストキラの前に二人が立った。握りしめているリュックに男が手を伸ばす。


 「死んでなかったのね」

 「ふん。幸運の持ち主もここまでだ」


 男はそう女に返すと、手にしたリュックの中を確認した。


 「なりたてほやほやの奴に持たせるなんて考えたもんだ」

 「で、この子どうする?」

 「放っておけばいい。どうせ生きては帰れないだろうからな」

 「そうね。食料も持ってないしモンスターがでれば、終わりよね」

 「召喚したモンスターが俺を狙うとは驚いたけど、一人ならこいつを狙うしかないだろうからな。いくぞ」


 二人は、倒れているエストキラに背を向ける。


 「はい。言質とりました~」


 その言葉に驚いて二人が振り向けば、エストキラがむっくりと起き上がっていた。


 「な……」

 「うそ」

 「まあ、止めを刺そうとしなかったのは救いかな?」

 「やめておけ。そいつは、追っていた少年じゃないぞ」


 男が剣に手をやると後ろから声がかかり、顔だけ振り向いて驚く。


 「お前……」

 「諦めろ。シィ」

 「あいよ!」


 ハッとして立ち上がった少年に目をやれば、すでに彼は二人の目の前で、両手で二人に触れていて動けなくなっていた。


 「俺の能力、縛りだよ。大成功だね、リーダー」

 「大成功ではないだろう。でもまあ、捕らえる事はできたな」

 「ふん」

 「口を割らなければ、助けが来ると思っているか?」

 「残念だったね。来ないよ。向こう依頼主も捕まっている頃だからね」

 「なぜ、先回りできたのよ。落ちたのは偶然でしょう?」

 「落ちたのはね」

 「シィ!」

 「はーい。余計な事は言わないでしょ」


 二人は、一緒に来ていた神殿の者に連れられて行く。


 「リーダー。彼が起きました」

 「………」


 連れられて行く二人を本物のエストキラがあんぐりと見つめていた。


 「初めまして。通称神殿の騎士ギルドのリーダーだ。よろしく」


 赤髪で赤い瞳の彼は、にっこりと微笑む。剣を装備している事から本当に騎士なのかもしれない。


 「さっき自己紹介したと思うけど、もう一度。ビィよ。よろしくね」


 パチンと右目をつぶりウインクをエストキラに飛ばす彼女も赤髪に赤い瞳だ。


 「そんで俺がシィ。まあわかってるとは思うけど、通称な」


 ”通称だったのか。僕も名乗った方がいいのかな? というより何が起きたんだろう?”


 自分と同じ容姿のシィを目の前にして、混乱しているエストキラは、そうじゃないと頭を振る。


 「僕、利用されたの?」

 「すぐに助けなくて悪かったな。作戦だったんだ。情報を流し、あの二人が所属する盗賊ギルドが動くのを待った」

 「言質を取りたかったから襲われてもすぐに動けなかったんだ。予想以上の行動で焦ったけどね」

 「えーと、僕が襲われた理由はわかったけど、どうしてここに僕がいるってわかったの?」

 「それは、あのお届け物に仕掛けが施してあって、場所がわかるようになっていたからだよ」


 なるほどとエストキラは頷いた。けど、本当なら死んでいたのだ。利用された事も知らずに。

 

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