天空の女神|満月の夜、美少年呪術師に至高の女神は降臨する

宇美

第1話

僕はガーヒョ族の村で、

少年達の通過儀礼に関する調査を一段落させた。


翌朝未明に商人の漕ぐカヌーに乗せてもらい、

レラア河を下り、三ヶ月ぶりにリソ族の村に戻ってきた。


「イチロウ、帰ってきたんだね」


こげ茶の顔に白い歯を光らせて、

満面の笑みで出迎えてくれる村人達の中から、

キユを探す。


いつもは一番に飛んできてくれる彼がいない。


どうしたというのだろうか?

また儀式中なのだろうか?


そう思っていると、人々の合間にすらりと、

青空に向かって伸びるフラミンゴの羽が目立った。


揺れる赤い羽を、下へ下へと辿たどっていくと、

コーヒー色をした男女の一番奥に彼の顔が見えた。


今日の彼は何かの儀式の後なのか、

羽飾りがついたヘアバンドの下の髪を、

女の子のように二つのお下げにしている。


耳の下で縛った根元と、

胸までの三つ編みの先っちょにさくらんぼのようなビーズをつけている。


赤い絵の具で猫の髭のようなフェイスペイントをしていた。


生成りの無骨な毛織物のマントから、

か細い脚が露出していた。


その先に、僕が彼の妹のシアラにあげたはずの、

ピンク色のビーチサンダルをつっかけていた。


顔の半分ほどもあるかと思われる、

潤んだ目で僕をじっと見つめている。



キユに出会ったのはもう今年で十一年になるが、

彼は出会った時からまるで年をとらないし、

一向に男くさくもならないのは不思議なことだ。


この新手あらての女の子じみた格好は、

何の儀式の為だろうか? 


どうして、すぐに会いにきてくれないのだろうか? 


僕を取り囲んでいた人達が一人一人と去り、

僕の周りの人垣に大分隙間ができた時になって、

彼はやっと近づいてきた。


マントは肩から外され、

腕に掛けられていた。


華奢な肩に重たげな、

十連近くあるアベチュリンのネックレスの下に、

小山のような乳房が盛り上がっている。


かりっとした顎を上に傾けオレンジ色の形のよい唇を開いた。


「お兄ちゃんなら自分の部屋にいるわ」


やはり何かの儀式の準備中なのだろうか?


「よくわからないけど、

お兄ちゃんたら最近、自分の部屋で鏡ばかり見ているのよ」


確かにお兄ちゃんはきれいだから自分の顔を眺めていたら楽しいんだろうけど、

ああ毎日毎日朝から晩まで部屋にこもって鏡ばっかし見ていて、

よく飽きないものだと皆あきれているのよ、

とシアラは柳眉をしかめた。


僕が君だってきれいだよ、

とシアラの肩に手を置くと、

シアラは表情を変えないまま白目を上と下に大きく張らせた。


湖面のようにきらめく瞳孔の中に、

人形のように小さな僕がいる。

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