捜索
さんざん探し回ったのだろう、ユーフから疲れがみてとれる。海から陸地にあがって友人を探して旅をしているユーフの力になれるだろうか、と私は頭をひねった。
「人間なら、もしかすると探せるかな……」
こういう時は文明の力を使おう。スマホを取り出すと、ユーフは目を輝かせていた。
「それ、何です?」
「スマホって言って、これさえあれば世界中の人と繋がれる便利な機械」
「彼の発明品も凄いですが、これもなかなかの発明品ですね」
私が発明したわけではないが少しだけ誇らしくなってくる。きっとユーフは褒め上手なのだ。だから、友人もいろいろと彼に話したくなるのだろう。
「どんな機能があるんです?」
顔の中央にある切れ目のような鼻を、好奇心で膨らませているユーフに聞かれて、私は写真のアプリを開いた。自撮りモードに切り替えて、シャッターを押す。突然鳴ったシャッター音にユーフは驚いて「ひぃ」という短い悲鳴をあげた。
「こんなふうに、写真を撮ったり」
「写真……って、ぼくとあなたがスマホの中にいる! どうして? え、何があったんです?」
混乱しているユーフを横目に、私は加工アプリを開いてさくさくとユーフを美顔にしていく。人間以外の生物の美顔とはどんなものかよく分からないが、とりあえず目を今以上に大きくしてエラを削ってみた。
「写真に手を加えて遊んだりもできるし」
「わぁ、これぼく? 別人みたいだ」
うっとりとしたユーフを見て、美顔加工はどうやら成功した模様だと知る。
「ぼくの友人も、それは楽しそうに発明品をぼくに見せてくれました」
「ちなみに、その友人の名前は?」
本題に入るために、検索画面に切り替えた。
「キャプテン・ネモって言います」
「キャプテン・ネモ、ね」
何故だろう、聞き馴染みのある名前。もしやどこかで会っただろうか。
言われた通り、検索してみる。SNSをしていれば、ヒットする可能性がある。が、出てきたページはネット上の辞書のようなものだった。
「んー、残念だけど、これしか出てこなかった」
検索結果を見せると、ユーフは興奮気味にスマホの画面を指さした。
「彼です、彼。僕の友人のキャプテン・ネモ!」
ユーフの水かきのついた指の先にあったのは、オルガンを弾く初老の男性の横顔のイラストだった。
「本当に、この人?」
何度も首を縦に振るユーフに、私は言葉を失った。
「彼はどこに?」
きちんと伝えなければならない。それが事実だから。
「ユーフ、落ち着いて聞いてね。キャプテン・ネモは、架空の人物だよ」
愕然とするユーフは、目をぱちくりとさせていた。わなわなと震える口からは、「そんなはずは……」という力ない言葉だけが抜け、空気中に漂って消えていく。
「そうみたい」
「なら、ぼくが出会ったあの人は一体誰だったんだろう」
肩を落としてショックを隠せないユーフに、私はどう声をかけていいのか分からなくて黙りこんでしまった。
よろよろと立ち上がると、ユーフは疲れがまじった笑顔を見せてくれた。
「お手数をおかけしました。どうやら、ぼくの友人を探すのは難しかったようです。海に帰ろうと思います。ありがとうございました」
ユーフの小さな背中はより一層小さく見え、とぼとぼと海の方向へと歩いて行ってしまった。ここからかなり距離がある。そう教えようとしたが、声をかける間もなく去っていってしまう。
可哀想に思えたが、私にはどうすることもできないもどかしさで胸が締め付けられる。
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