引退間近


 湿気を含んだ風が背中を押した。


「ハッ、ハッ……」


 トラック競技でも屈指の辛さをほこる400m走。水溜まりを蹴り上げ、腕を振り、前へ前へ。

 残すは、ラスト100m。


「45、46……!」


 後輩の声を目指してとにかく走る。


 もう少しだけ。この声を聞いていたい。


 悲鳴をあげる体とは裏腹に、ふとそう思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る