このまま彼等は戻ってこないのではないかと不安に思いながらも、その場を動くことができずにいた大悟と玲奈が扉の方をみていると、彼らが現れたのだ。


 正直彼らの姿をみたときはホッとした。


「よかった。みんな無事だったんだね」


 そういいながら彼らに近づこうとしたのだが、すぐに違和感を覚えた。


 違うのだ。


 確かに大悟の知る友人たちの姿そのものなのにその歩き方も雰囲気もまったく異なるものになっていた。


 大丈夫ではない。


 元の姿に戻っていない。


 異形の存在のままだ。


「吉川さん。逃げるよ!」


 大悟は思わず玲奈の腕をつかむと一目散に逃げた。


 逃げて、それからどうしたのかは覚えたいない。学校から出て家に帰ってなにごともなかったかのように寝たのだろう。


 そして、朝起きると昨日のことはただの夢だったのだろうと自分に言い聞かせながら制服に腕を通す。


 食後の片付けをしている母に「いってきます」とあいさつをして家を出る。


 いつもと変わらぬ朝を迎えたいたのはたしかだ。


 だけど、心はすっきりしない。


 夢だ。


 自分は夜中に学校へいっていない。


 そう言い聞かせながらも脳裏に浮かぶのは夢ではなくリアルだった。


 学校へ近づくほどに現実だという自覚が芽生えていく。


 行きたくない。


 知りたくない。



 そんな思いが大悟の足を重たくさせる。


「きゃーー!」


 そのとき、だれかの悲鳴が学校のほうから響いた。なにごとかと大悟と同じ方向へと周りの生徒たちが校舎の方をみている。


 たちまち足早に校舎へとむかう生徒たちのなかで大悟だけがその場にたたずんでいる。どれくらいそうしていたのかわからない。


 気づけば校舎へ向かっていた生徒たちが今度は学校から飛び出していくのが見えた。行きよりも倍の速度で次々と大悟の横を駆け抜けていく人たち。


 夢ではない。


 確かにみたのだ。


 いたのだ。


 そしてそれが校内であばれているのではないかと思った。


 だからといって、大悟になにができるというのか。


 大悟の足が校舎のほうへと進みだした。


 進むにつれて逃げていたはずの生徒たちが走る姿勢のままで止まっていることに気づいた。


 これはなんだろう?


 どういう状況なのか。


 校舎へ近づくほどに完全に動きを停めた人たちの数が増えていく。


 なにが起こっているのか。


 大悟は動きを止めている人たちへと近づく。


「石?」


 人ではない。石だ。


 それらはすべて人の姿をした石だったのだ。


 なぜこんなところに石があるのか。しかもそれらはすべて生徒の姿をした石が無数に存在しているのだ。それらの顔はすべて恐怖に満ちた表情をしている。


 なぜ石がある。


 いやただの石ではない。


 これらはかつて人だった。さっきまで動いていたはずの人間そのものだと大悟が直感した瞬間、目の前に元凶が出現した。


 そう、あの扉のなかへと入った大悟の友人たちの異形へと変わり果てた姿がそこにあり、彼らが次々と人間に噛みついたのだ。するとたちまち石へと変わっていく。


 それをみた人間が悲鳴をあげながら逃げ出す。されど捕まり襲われ自由を奪われていく。


 どうにかしないといけない。


 自分がどうにかしないといけない。


 あるはずだ。


 自分にはその力があるはずだ。


 なぜなら、大悟には生まれながら特殊な能力があった。それを使えば彼らを救えるのではないか。いやできるのか?


 この能力が何の役に立つのか。



「危ない!」


 そのときだった。呆然としている大悟の目の前に異形の存在が迫っていたのだ。


 自分もまわりと同じようになるのかとなぜか冷静になっているとその異形の存在が目の前で倒れたのだ。


「大丈夫か?」


 大悟がなにが起こったのかわからずに茫然しているとだれかが話しかけてくる。


 はっとすると、そこにはひとりの少年がいた。

 

 長身で、黒髪、整った顔立ち。


  制服は、大吾の着ている学ランとは違い、ブレザーに赤ネクタイ。おそらく他校の生徒だということはすぐに理解できるが見知った顔ではない。


「きみは?」


「話はあとだ。くるぞ!」


 少年の切羽詰まったような声で周囲が異形のものたちに取り囲まれていることに気づいた。どれもがこの学校の制服をきているが、その容姿は異様なほどに筋肉がもりあがっており、顔もまるで般若のごとく険しい。尖った爪に大きな牙。頭部には角が生えている。、

 鬼という言葉がぴったりだった。それが無数に大悟たちを取り囲んでいるのだ。


「おまえ、戦えるだろう?」


「え?」


 少年の言葉に大悟は目を見開いた。


「おまえ、能力者だろう? なにができる?」


 大悟は考え込んだ。そして戸惑いながらこたえる。


「変身能力」


「よし、じゃあ、ヒーローにでも変身したら、倒せるんじゃないのか?」


 なんとも冗談とも取れるような言葉だが、その口調はいたってまじめだった。


 だれかはわからない。


 だけど、なぜか信頼できる相手だと思った。


 大悟はうなずくと自分の脳裏に浮かんだヒーロー像に変身をとげた。








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