「神崎だ! 神崎が……」


愕然とするなか、教室から這い出てきた生徒の一人が震える声で訴えてきた


「お兄ちゃん?お兄ちゃんがどうしたの?」


 だれよりも早く詩歌のすぐ隣にいた沙耶が、反応を見せる。


振り返るとその顔は青ざめていた。


沙耶はどんな気持ちだったのか詩歌にもなんとなく想像がついた。


理科室から逃げるように出てくる生徒たちのなかに沙耶の兄である幸一の姿は見えなかった。もしかして、あの獣に教われた可能性があると考えて不思議ではない。


されど、詩歌は別の可能性があることを知っている。


もしかしたら、彼が加害者である可能性だ。


「え?」

 

 すでに絶命している先生の上に乗っていた獣が突如として詩歌たちの方向を振り向いたかと思うと、襲いかかってきた。


「きゃああ!!」


 詩歌は悲鳴をあげる沙弥を抱きしめるとそのまま横へと倒れこむ。

 

 すると、彼女たちの方を一瞥した獣はそのまま理科室を飛び出していった。理科室の前にたむろっていた生徒たちは獣に道を開けると、その間を獣が走り抜けていく。


「なんだよ! あれは」


 生徒たちがざわめき始めている。


「詩歌。大丈夫か?」


 健がいう。


 詩歌は放心状態の沙弥に気をくばりながら、大丈夫だと告げる。


「それよりも嶽﨑。追いかけて」


「はい?」


「だから、いますぐに追いかけなさい」


 そういいながら、詩歌は獣が向かった方向を指さした。


「はい」

 

 健は慌てて獣の去った方向へと走り出した。


 それを確認してから、詩歌も立ち上がった。



「詩歌?」


  詩歌に支えられるように立ち上がった沙弥が不安そうな顔で見ている。



「大丈夫。沙弥はとにかく来ないでね」


 そういって微笑んだ詩歌もまた健をおって、廊下を駆け出した


 


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