詩歌が血を流して倒れている。そのすぐそばには見覚えのある男の顔をした“吸血鬼”


“吸血鬼”はニヤリと不適な笑みを浮かべるとぐったりと倒れている詩歌の頭を鷲掴みにするなり自分の方へと近づける。そのまま、肩に鋭い牙を押し付けようとした。


「詩歌!!」


 健がそれを阻止しようと一歩踏み出すもそれ以上のことができなかった。詩歌が危ない。助けないといけない。いますぐに武器を“吸血鬼”にむかって投げれば救うことができるはずだ。


 それなのに動けない。


 健の目の前がスローモーションのように時が流れていく。


 詩歌の体内から血が流れている。


 ぐったりとした身体に“吸血鬼”の牙が食い込んでいく。


「バカにしないでよ」


 当然の詩歌の声に健ははっとする。


 詩歌は思いっきり“吸血鬼”のみぞおち辺りに肘を押し付けたのだ。すると、“吸血鬼”の身体がよろめく。



 その隙をついて、詩歌は“吸血鬼”から抜け出すときびすを返しながら髪に巻き付いてたリボンを引き抜く。束ねてきた長い髪がばさりと落ちる。そんなこと気にせずにリボンを“吸血鬼”へむかって投げつける。ヒラヒラとしていたはずのリボンは鋭くピーンと張り、そのまま“吸血鬼”の肩をつらぬく。


 ブシュー


“吸血鬼”の肩から血が吹き出してくる。


「栄治!」


 健は思わず叫んだ。


「あんたはどっちの味方なのよ!? しっありして!?」


 詩歌は叫びながら一度戻ってきたリボンを再び投げつけた。リボンは“吸血鬼”の身体に絡み付く。


「よし! 捕まえたわ」


 詩歌は逃すまいとリボンを引っ張り、“吸血鬼”を締め付けた。


「ホシイ」


「え?」


「ホシイ。ホシイ!ホシイ!!」


 突然“吸血鬼”が激しく暴れだす。


「ちょっと、大人しくしな………」


 詩歌がぐっと引っ張ると突然痛みが走る。先ほど“吸血鬼”によって負わされたキズから再び出血しはじめたのだ。


 詩歌の体がよろめく。


 もっていたリボンが手からスルスルと抜けていき、たちまち“吸血鬼”を解放した。



「詩歌!?」


 健は詩歌のほうへと近寄る。血が流れている。どうにか倒れずにいるのだが、意識を失うのも時間の問題だ。


「があああ!」


 吸血鬼は、勝ち誇ったかのような咆哮をあげる。


 再び健たちのほうへと襲いかかる。


「やめろおおお!」


 健は詩歌を背中に隠すと“吸血鬼”へ体当たりする。吸血鬼はバランスを崩して地面へと倒れこむ。そのすきに健は詩歌を抱えあげるとそのまま吸血鬼に背を向けて走り出した。


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