⑥
その吸血鬼の目は真っ赤にそまり、牙は鋭く延びている。裂けんばかりの大きな口。黒い服からのぞかせる肌のいろは異様なほどに蒼白い。
“吸血鬼”のイメージそのものなのだが、その顔立ちは健の記憶のなかにある友人の姿そのものだった。
「栄治? なぜ? いや……そんな……」
島木が動揺を隠せずに体を震わせている。
そんな彼の様子に健は違和感をもった。なぜそう感じてしまうのかははっきりしない。なんとなく、さきほどの島木の言葉といまの彼の様子に乖離的に思えてしまう。
「……栄治……」
島木は、なにかに引き寄せられるように“栄治”へとゆっくりと近づいていく。
「島木さん?」
その表情はどこか懐かしむようでいて、いとおしそうにしている。久方あっていないといった。そのためなのかとも思えるがそれだけではない。
健にはそう思えた。
「島木さん!」
健が島木の肩をつかもうとしたとき、
キイイイイイイ!!
突然“栄治”が奇声をあげた。
健たちは思わず耳を塞ぐ。
その瞬間。
吸血鬼が島木の肩を鷲づかみにした。
島木は、突然のことだったために驚いて眼を大きく見開く。
「島木さん!!」
健は、咄嗟に隠し持っていたカードを吸血鬼に投げつけた。
カードは吸血鬼の肩へと突き刺した。すると、吸血鬼は驚いたように声をあげながら、島木を突き放した。
島木はそのまま床へと倒れこむ。
「島木さん!!」
健はすぐに島木のほうへと駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「ああ」
島木が顔を上げた瞬間
「健くん!」
島木の声があがるよりもはやく、健の肩に激しい痛みが走った。
「……」
健は声にならない悲鳴を上げる。
健は、必死に視線のみを肩のほうへと向けると、吸血鬼が離すまいと健の肩に噛み付いていたのだ。
血が流れ落ちていき、身体がしびれていくのを感じた。それでも、健は背後から自分に乗りかかっている吸血鬼のみぞおち部分を懇親の力を肘にこめてたたきつけた。その拍子に吸血鬼は離れていき、牙が抜かれた箇所から再び血が流れ落ちる。
それを抑えながらも健は再びカード二枚吸血鬼の足にめがけて投げつけた。
見事に突き刺さり、そのまま吸血鬼の足が折れた。
「栄治……」
健は、にじみ出る血を抑えたまま、吸血鬼に話しかける。
吸血鬼が顔をあげるが、その表情からはまったくというほど感情が読み取れない。
栄治ではないのか?
けれど、記憶の中にある栄治そのものだ。
健は島木のほうへとちらりと視線を向ける。
島木も事態が飲み込めずに座り込んだまま呆然としている。その表情から島木が、この吸血鬼が自分の息子であることを確信しているように見える。
健が再び吸血鬼のほうへと視線を向けると同時に、吸血鬼が健の足を掴み取った。
「うわ!」
そのまま、健の身体を伝って立ち上がろうとする。
「栄治! 離せ! どうしちまったんだ!?」
健は、あせりを見せた。
「くそ!」
健は、肩に痛いを感じながらも、右手でおもいっきり栄治の頭部を鷲づかみにする。
その瞬間、健の脳裏に膨大な情報が一気に流れこんできた。。
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