⑩
そのころ、詩歌は尚隆と公園にした。公園にある遊具もそこで遊ぶ子供達さえも氷のなかに閉ざされてしまっており、時が完全に止まっている。
氷に閉ざされた彼らは意識があるのだろうか。身動きがまったく取れずに助けを求めているに違いない。されど、詩歌にはこの氷を溶かすすべをもたない。
松明かなんかを使用して火を用いて溶かすという方法もあるが、町中が氷に閉ざされた状況では意味のないこと。それにこれは普通の氷ではない。精霊が生み出した氷だ。通常の炎で果たして消えてくれるのだろうか。
どうしたらよいのかと詩歌は隣に佇む尚隆をみると、両腕を両腕を組んだ状態でなにやら思案していた。
尚隆にもどうしていいのかわからないのだろう。
「リーダー」
詩歌が声をかけるも、尚隆は氷をじっとみつめている。
やがて、自分の髪をくしゃくしゃにする。
「リーダー?」
「俺たちはできることをやるしかないな」
そういうと氷のほうへと向かってゆっくりと歩き出す。その手にはいつのまにか刀が握られていた。
氷の柱に近づくと、刀でおもいっきり切りつける。しかし、氷は少し傷がついただけにすぎない。
「はやり無理か」
尚隆は自分のもつ刀をみながらつぶやく。
「じゃあ、これならどうかな」
尚隆は刀で自分の腕をさいた。
「芦屋さん!?」
詩歌が思わず叫んだ。
尚隆の腕から血が滴りおち刀に降り注ぐ。
尚隆はぶつぶつとなにかを唱え始めると、赤い血が光を帯び、たちまち刀全体に広がっていく。
「朱雀!」
その刀を再び氷に向かって振り下ろした瞬間、一気に炎が生まれるとどうじに氷が弾けるように崩れていった。
氷に閉ざされた人間はなにが起こったのかわならないらしく、周辺をキョロキョロしている。
「寒い」
「こっこおってる!!」
周辺が氷に閉ざされていることに気づいた彼らは愕然としている。
そんな彼らに尚隆は近づく。
「おじさん。だれ?」
そのうちの小さな子供がたずねるのだが、尚隆は答えることなく頭を撫でる。すると子供は意識を失って倒れた。
それに驚いた回りの子供たちだったが、尚隆と目があった瞬間に次々と倒れていった。
「リーダー?」
「眠ってもらっているだけだ。行こう」
そういって歩き出した。
詩歌はしばらくその後ろ姿をみつめる。
いつのまにか、刀で切りつけたはずの腕から流れていた血がとまっている。
それを見つめながら、半年前のことを思い出していた。
そのころ、詩歌は昔ある事件から救いだしてくれた尚隆を追いかけて上京したてのころだった。転校した学校で嶽崎健と出会ったころの話だ。
転校してどれくらいたったのかはわからないが、突然出現した化物に襲われたのだ。そのころはまだ詩歌にも健にも戦うすべを持ち合わせていなかった。
だから、あっという間に化物によって負傷させられたのだ。
詩歌は軽傷だったのだが、健は瀕死の状態だった。
『絶対に助けてやる!!ぜったいに!!』
そんなときに尚隆が現れた。化物をあっという間に倒した尚隆は自分達のもとへと駆けつけるな。突然自分の腕を切りつけると滴る血を健の傷口に注ぎ始めた。
いったい、なにをしているのかわからずに呆然としていると、健の身体の傷があっという間に塞がっていくのがみえた。
いったい、この人はなにものなのかと思考していると自分にむけてくる視線に鼓動を高まるのを感じた。
そのときはじめて気づく。この人がかつて自分を助けてくれた人なのどと気づいたとたんに詩歌は思わず、自分のことを名乗ったのを覚えている。
すると、彼はすぐに気づいてくれた。
それから半年。
結局彼のことはよくわからないままでいる。ただ化物たちとの戦いを繰り広げているということぐらいだ。
「芦屋さん」
詩歌は、尋ねてみたかった。
あれを見たのは、詩歌だけだった。健もその事実を知らないし、詩歌も理解できなかったからいわなかった。
尚隆もわざわざ、自分の血を分け与えたなどとはいうはずもなかった。
尚孝は、詩歌のほうを振り向いた。
「あの……その……」
尋ねたい。どうして、健の傷が治ったのか。どうして、健にあんな力が目覚めたのかを尋ねたい。
「なにをしている。行くぞ」
「でも、私には」
尚隆は詩歌のほうへと戻ってくると軽く頭をなでる。
「大丈夫だ。君にもできることがある。それに仲間たちもいるだろう。とにかく行こう。おそらく……もう……」
そのとき、尚隆のスマートフォンが鳴り響いた。
「どうした?」
尚隆はスピーカーモードにする
『リーダー!!』
スマートフォンから健の声がもれる。
「どうした!?」
『久坊が…… 。 久坊がさらわれた!!』
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