⑬
校内に異様な空気が立ち込めていた。
普通の人間には決して感じられない邪気。
それを不思議と感じてしまうのは、ずいぶんと『核』の存在と戦っていたせいもあるのだろう。
「詩歌。メールきてたぜ」
詩歌の後方を歩いていた健が言った。
そこでようやく、気付いたらしく、詩歌は携帯を取り出して、メふールを開く。
一通りよみおえると、それを閉じると歩き出した。
そんな彼女の様子を後方から健が見守っていた。
それさえも詩歌は気付かない。
ただ、脳裏に浮かぶのは、幸一と沙耶の姿ばかり。
いったい、なにがあったの?
どうして、先輩があんなことになっちゃったの?
何度も浮かんでは消える疑問。
なぜ、『核』は、幸一の前に現れたのだろうか。どうして、それは幸一の心の奥底へ漬け込むことができたのだろうか。
その可能性は一つしかなかった。
それは『闇』だ。人の心にある闇、闇はひいとに隙間を作る。
できた隙間から入り込んで、人を支配してしまうものが『核』と呼ばれる謎の存在。
詩歌の脳裏に今度浮かび上がったのは、尚隆の姿だった。
長身に整った顔立ち。
その眼は常にまっすぐに見据えている。
彼を見た瞬間、眼を奪われた。そらすことのできない絶対的な存在がそこにあったのだ。
あの時、尚隆とであったあの時、一瞬で彼に惹かれた。
自分よりもずっと年上の男の人。
自分のことを見初めてくれた人だった。だから、彼のためならば何でもしたいとおもった。
だから、彼が一緒に戦おうといったとき、何のためらいもなく了承したのだ。
そのときに、彼は『核』のことを話してくれた。
けれど、彼の告げたことというのは、簡単にいえば人の奥深くまで師の見込み『心の闇』を無理やり引き出させるものが『核』だという説明だった。
正直、それを聞かされたときは、意味がわからなかった。そう言うと、尚隆は困惑気味にうまく説明できないのだといった。
それから、どれぐらいのときが経ったのだろうか。
この仕事をするようになってから、少しずつ『核』が何なのか、おぼろげに理解できるようになっていた。
だから、感じることができる。
けれど、どうして幸一に『核』がついたのだろう。幸一にとっての『心の闇』とはなんだろうか?
詩歌は、その答えを必死に探そうとしていた。
けれど、答えなど出ない。
わからないのだ。
「詩歌!!」
詩歌は、健の声ではっとする。
「どうしたの?」
「聞こえネエか?」
「え?」
詩歌はきょとんとした。
「ほら、聞いてみろ。誰かの声が聞こえてくるぜ」
そういわれて、詩歌は耳をすましてみた。
「……助けて……」
すると、詩歌の耳に確かに声が聞こえてきた。
聞覚えのある声だ。
この声は……
「沙耶……。沙耶なの!?」
詩歌は声を張り上げた。
「詩歌? 詩歌なの?」
弱弱しい聞きなれた声がどこからともなく聞こえる。
どこ……
どこに?
詩歌と健は、周囲を凝視する。
「神崎!! どこにいるんだ!?」
健が叫ぶ。
「きゃあああああ!!」
詩歌と健は、沙耶の悲鳴ではっとする。
二人の視線は、理科室のある方向へとそそがれる。
「まさか……」
「理科室か!!」
詩歌たちはすぐさま、理科室へと向かって走り出した。
「沙耶!」
理科室のドアを開けた瞬間であった。それを狙っていたかのように銀色の狼が詩歌たちに襲い掛かってきた。
「きゃ!!」
詩歌が悲鳴をあげると、彼女をかばうように健は詩歌を自分の背に隠す。
そして、ポケットからカードを取り出すと投げつけた。
しかし、狼はそれを避けるかのように一度横へそれていく。
カードは、そのまま地面へと突き刺さる。
「くそ!!」
狼は再び、飛翔すると詩歌たちへとむかってきた。
そのまま、健へとぶつかっていき、押し倒してしまった。
「!?」
「くそ!!」
狼は、健を逃すまいと力をいれて、動きを封じる。
「なめるな!」
しかし、それで観念する健ではない。
うにか動く右足で狼の後ろを蹴りつけた。
しかしながら、それしきのことが狼に通用するはずがなかった。狼は、健の肩に喰らいつく。
「!!」
肩に血がにじみ痛みが走る。
「このっ!!」
詩歌は、リボンを取り出すと、それを狼へと投げつけた。
しかし、それさえも見抜いていたらしい。
狼は、詩歌に背を向けた形のまま、健のもとを離れて飛翔した。
そのまま地面へと着地すると、今度は詩歌へと狙いを定めた。
「させるかよ!!」
健は、立ち上がるとすぐにカードを数枚取り出すといっぺんに投げつける。
すると、カードは生命を宿したかのように、右左へとカーブをしてうごき、狼を両側から捕らえ、それの胴体へと突き刺さる。
狼は、断末魔の叫びを上げて、そのまま地面へとたたきつけかれる。
カードはそのまま、生きているかのように健の下へともどっていった。
「詩歌!? 大丈夫か?」
健はすぐに詩歌のほうへと駆けつける。
「うん。私は、なんでもないけど。あんたは怪我してんじゃないの!?」
「こんなの平気さ。つばつけりゃあなおる」
「そんなわけないじゃないの!このばか!」
詩歌が怒鳴りつけた。
内心ほっとしていた。
「……詩歌……」
そのときだった。詩歌たちの耳にいまにも消えそうな声が聞こえてきたのだ。
詩歌たちがはっと振り返ると、そこには傷だらかになった雅の姿があった。
雅は血まみれで、制服もところどころ破けている。
「雅!!」
「詩歌…嶽崎くん……」
沙耶は、詩歌たちの姿をみてほっとしたのだろうか。そのまま気を失ってしまった。
「沙耶!?」
詩歌は、すぐに雅のほうへと駆け出そうとした。
「詩歌! あれっ!」
健の言葉で、はっとする。
倒れている沙耶の向こう側に、人影が見えたのだ。
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