バトル2嫉妬深き獣


「よお。詩歌~遅かったなあ」


 赤城詩歌あかぎしいかが学校へと向かおうとすると、寄宿舎の玄関前には嶽﨑健たけざきつよしが満面の笑みを浮かべながら立っていた。


 また、こいつかと詩歌を眼を細めて見たかと思うとそっぽを向いて歩き出した。


 その背後を健は、バイクを押しながらつけてくる。


「なんだよお、無視すんなよお。詩歌~。同士だろう?なあ」


「うるさい!あっちいきなさいよ!!」


「そんなこというなよお。せっかく乗せてやろうと思っていたのにさあ」


「結構です。あんたの後ろに乗るぐらいならば遅刻したほうがましよ!!」


 詩歌は、さらに早足で歩いていく。それでも、健が詩歌の後をつけてきた。


「なあったら、詩歌~」


「もう、さっきからなによ!!」


 詩歌は、あまりにもしつこくいうものだから、立ち止まり振り返ってしまった。


「なあ、昨日のことなんだけどさああ」


「え?昨日?」


詩歌は、一瞬何を言われたのかわからずに眼を芝立たせていたが、脳裏には昨日の『核』の処理を行ったことに関することだと気付いた。


「昨日がどうしたの?」


「妙な視線感じなかった~」


「視線?」


「よくわかんねえけどさあ。なんかすごい殺気みたいなもの感じたわけよ。俺の気のせいかなあ」


「あんた、だれかに恨まれでもしているじゃないの?」


「え? 俺!? んなわけねえだろう?俺がうらまれるなんんて~」


健は、陽気にいった。確かにこいつが恨まれる可能性はゼロにちかいかもしれないと詩歌は思った。


うらまれるにしては、余りのも軽すぎる。それどころか、馬鹿すぎるから恨む気すら浮かばないように思えたからだ。


馬鹿らしいと思い、詩歌は再び健に背を向けてスタスタと歩き始めた。


「あ!詩歌。乗らないのか?」


「乗らない!さっさといきなさいよ」


それ以上詩歌は、健のほうを振り向く気にはなれなかった。


「詩歌~」


情けない声が妙に耳障りだ。


こいつのしつこさはどうにかならないのだろうか。


いい加減すぎるのだ。


いつも、軽くて、人のことを馬鹿にしているとしか思えない態度。


正直なにを考えているのかさえもさっぱりわからないやつだ。


ああ、どうして、こんなやつと『特別怪奇捜査部』の任務にいるのだろうかと疑問にさえも思う。


『特別怪奇捜査部』というのは、警視庁が特別に設けた部署らしい。しかし、その部署の存在は、世間一般にもしられることもなければ、警視庁関係者でもごく一部しかしられていない部署である。主に担当するのは、怪奇現象と呼ばれるものであり、『核』と呼ばれる人を人ならざる存在へと変えてしまうものの処理であった。


それに所属しているのが、詩歌や健たちであった。


結局、健は校門までバイクを押して詩歌のあとをついてきた。


けれど、気にならなかったのは不思議なものだ。


まあ、こんな風に健が、詩歌の背後を歩くという行為になれてしまっているせいもある。高校へ入学してから、いや『特別怪奇捜査部』に配属してからというもの当たり前のように続いていることだったからなのかもしれない。


 詩歌は、思わずため息をついたとき、不意に一人の少年が眼についた。


「あ!神崎先輩だ!」


 詩歌の声に少年のほうも気付いたらしい。こちらへと振り返った。


「おはよう」


「おはようございます!!」

 

 神崎幸一に挨拶されて、詩歌は思わず舞い上がってしまい、上ずった声で挨拶を交わす。


そんな彼女の態度に、健は不機嫌になり、神崎幸一をにらみつけた。


 幸一の視線はすでに詩歌の下へはなく、友人とともに校舎のほうへと歩いていく。


 その後姿を詩歌はしばらく眺めていた。


「むかつく」


 突然、健が起こったようにつぶやき、詩歌はぎょっと健の横顔を見た。

 健は、しっかりと幸一をにらみつけている。


「なんかむかつく!俺のほうがもっと人気あるっての!!」


 そういうと、スタスタとバイクを駐輪所へと持っていった。


「なに?あれ?」


 詩歌は呆然と彼の後姿をおった。

 

「嫉妬ね~」


 詩歌はすぐ耳元で声が聞こえてきたためにぎょっとする。


 気付けばそこには、神崎幸一の妹である雅の姿があった。


 詩歌はぎょっとして振り返る。


「沙耶」


「もう、詩歌ったら、はっきりしてやったら、あれだけラブコールあっているのに、答えて上げなよ」


 沙耶の言葉に、詩歌は思わず苦笑した。


「答えるもなに、私、アイツに恋愛感情なんてもたないし……」


「そうなの?」


 沙耶は、意外そうな顔をした。


「なによ。その顔」


「いや、私、てっきり詩歌も嶽﨑君の好きだと思っていたわ」


「まさか~ありえないでしょ? それにあいつは確実にからかっているだけだし……」


「まあ、確かに嶽﨑君だからねえ」


 そういいながら、詩歌と沙弥は教室へと向かった。


「ねえねえ」


教室へと入ると案の定、健が人懐っこい笑顔を浮べながら女の子に話しかけている。


「俺と今度デートしない?」


「いやよ。ばーか」


「馬鹿じゃねえよおだ。俺の愛をうけいれてくれ!」


 そういって、健は両手を広げて見せた。


「いや~もう嶽﨑くんったら~」

 

 嫌だといいながらも、クラスメートの少女たちはそれなりに楽しんでいるようだった。健の友人たちも笑っている。


「あれが本気に見える?」


 詩歌は健を指差しながらいった。


「確かに」

 

 沙耶も思わず苦笑した。


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