おチビちゃんの挑戦その3-2
『グウ』
花壇の上り下りを繰り返してはチャンスを窺っていたおチビちゃんの腹が、マンガみたいな鳴き声をあげた。
「腹減ったのか?」
「・・・・少しね。」
『グウゥゥゥ』
おチビちゃんの声に被るように、再度腹が鳴く。
「すげー減ってる、って言ってるぞ。お前の腹。」
「勝手に私のお腹の音を訳さないでくれるかしら。私はまだ」
「俺、あっちで食い物買ってくるから、おチビちゃんは向こうで飲み物頼む。俺、コーラ。ここで待ち合わせな。」
すぐ近くにあるテーブル付きのベンチを待ち合わせ場所にし、俺は露店に向かった。
「ちょっとっ!いい加減ひとの話を最後まで聞きなさいよ、高宮 漣!」
なにやら後ろからおチビちゃんのわめき声が聞こえたが、放っておいても、問題はないだろう。
さて、何にするか。
露店ではおなじみの、たこ焼き、唐揚げ、焼きそば、それに大阪焼き。
たこ焼きと大阪焼きで悩んで、結局大阪焼き以外を1つずつ。
ちょっと多いような気もするが、あれでおチビちゃんは結構食うし。
そんなことを思いながらベンチに戻ると、既におチビちゃんは戻っていた。
「おまたせ。」
テーブルの上に食い物を並べると、おチビちゃんの目が輝き始める。
「やっぱり、見るとお腹が空いてくるわね。」
「腹はさっきから減ってただろ。」
俺の言葉が耳に入っていないのか、スルーしたのか。
いただきます!
と言って、おチビちゃんはさっそく唐揚げにかぶりついた。
「なぁ、弁当作って来るとか、無いわけ?」
たこ焼きを口に放り込みながら、聞いてみる。
「彼女になったら、それくらいするわよ。」
大口を開けて、焼きそばを頬張るおチビちゃん。
「ほんとかよ。」
「失礼ねっ、ひとを何だと思ってるのよ。」
満足そうに次々と平らげていくおチビちゃんの口元は、焼きそばの青のりやら、たこ焼きのソースやらマヨネーズやらで、賑やかなことこの上ない。
「ほら、口拭け。」
露店で貰ったナプキンを渡す。
「えっ?」
慌てた様子で口元を拭うが、口の端にソースが少し残っていた。
「まだついてるぞ。」
拭いてやろうと距離を縮めた時。
おチビちゃんと、ガッツリ目が合った。
顔を強ばらせるおチビちゃんに構わず、手を伸ばしてソースを拭いてやった俺に、おチビちゃんは言った。
「言っておくけど、今のはチャンスを逃した訳じゃないわよ。青のりやらソースやらついた口でキスなんてしたくないから、しなかっただけだからね!」
「へいへい。」
「ちょっとっ!真面目に聞きなさいよ、高宮 漣!」
確かに、言われてみればその通りだ。俺だって、青のり&ソース&マヨだらけのキスは、ごめん被りたい。
(食い物チョイス、誤ったか。)
ちっ。
舌打ちしかけて、ふと思う。
何故今舌打ちしようとした?
残念なのか?俺。
「まさか。」
気づくと、自問自答中の俺を、何やら疑わしげな目付きでおチビちゃんが見ている。
「ん?」
「これが狙いだったの?!」
「は?」
「青のりとソースで、私のリベンジを阻止しようって魂胆ねっ!」
眉を吊り上げて、おチビちゃんは俺を睨んだ。
「どんだけ非協力的なの、高宮 漣!」
まてまてまてまて。
ウソだろ?
確かに、今回の食い物チョイスは悪かったけど。
でも俺、今まですげー協力してると思うぞ?
・・・・って、なに協力してんだよ、俺。
「悔しいけど、今日のリベンジは失敗だわ。」
肩を落とすおチビちゃんに、なぜだか俺は申し訳なさを感じていたのだった。
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