おチビちゃんの挑戦その1-1
「おはよ、おチビちゃん。早いな。」
待ち合わせの土曜日。
10時10分前。
おチビちゃんは既に到着していて、俺を待っていた。
「何度言えばわかるのよ、高宮 漣!わたしの名前は」
「なんだ?その靴。」
おチビちゃんの姿になんとはなく違和感を覚えて足元を見れば、10センチはあろうかという厚底シューズを履いている。
「これが何か?こんなのいつも履いてるわよ。」
しれっとした顔で言われ、もう一度見てみたものの、どう見ても下ろしたての新品のシューズにしか見えない。
「あんまり、無理すんなよ?」
まずは、身長差をどうにかしようという作戦なんだろう。
いじらしさに、思わず頬が緩んでしまう。
・・・・ウソだろ。嬉しいのか?俺。
「だからっ。こんなのいつも履いて」
「向こうの花壇が、今見頃みたいだぞ。」
みつばち公園には、どうやら各季節ごとにそれぞれ見頃を迎える草花が植えられているらしい。
おチビちゃんの挑戦を受ける側としては地理の把握も必要だろうと、昨夜スマホで調べた情報だ。
別に、楽しみすぎて眠れなくて、手持ち無沙汰に調べたわけではない。
と、思いたい。
「行ってみようぜ。」
「うん。」
目指す花壇に向かって、歩き始める。
「あ、あれだな。見えるか、おチビちゃん。」
一応ゆっくり歩いているつもりだったが、話しかけようと見た隣に、おチビちゃんはいなかった。
(あれ?)
後ろを見ると、まだかなり後ろで一生懸命歩いているおチビちゃんが見える。
その姿はまるで・・・・
(初めて高下駄を履いた幼稚園児か。)
しばらくその場に立ち止まり、俺はおチビちゃんが追い付くのを待った。
「いつも履いてるんじゃないのか、それ。」
「うるさいわね、どんだけせっかちなのよ、高宮 漣。私は、景色を楽しみながらゆっくり歩いてたのよ。」
相変わらずの、減らず口。
だが、見るからに相当歩きづらそうだ。
このままじゃ、すぐそこの花壇に行くまでにも結構な時間がかかることは、想像に難くない。
「はいはい。」
見るに見かねて、俺は左手をおチビちゃんの前に差し出した。
「なによ。」
「いいから、掴まれ。」
「だから大丈夫だって」
「俺はせっかちみたいだからな。早くあの花を見たいんだ。」
「・・・・仕方ないわね。」
ふてくされた様に膨らませた頬をほんのり赤く染めながら、おチビちゃんは割と素直に俺の手の上に右手を乗せた。
背も小さいが、手も小さい。
子供みたいなその手が壊れてしまいそうで、俺はそっと支えるだけにしておいた。
「気をつけろよ。」
「わかってるわよ。」
支えができて少しは歩きやすくなったのか、おチビちゃんの歩くスピードも先ほどよりは早くなり、それから間もなく目的の花壇に辿り着いた。
「わぁ・・・・きれい!」
そう言って俺の手を離し、おチビちゃんは花壇に走り寄る・・・・ことは、叶わなかった。
「わっ!」
バキッと。
不自然にグニャリと曲がったおチビちゃんの足首あたりから、すぐ近くの俺にも聞こえるくらいのイヤな音が響いた。
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