第46話 状況整理(2)
「……何だか、面倒臭い話だよね、男って。もっと簡単に話が決まりそうなものだと思ったけれど?」
「話が決まりそうなぐらい単純なことでも、なかなか決められなかったりするものさ。……そればっかりは致し方ない。人間というのは単純なようで、そうではないから」
ユウトの言葉に納得しつつも、少しだけやっぱり不満は残っているようで、
「でも、納得しそうにないよ。……やっぱり、それは仕方ないかもね。新聞記者として働いているアンバーだからこそ、そっちのルールも遵守しなければいけないんでしょうけれど」
ルールの遵守というのは、一言では片付けることは出来たとしても、そう簡単に飲み込むことは出来ない。
「まぁ、言いたいことは分かる。……新聞記者も色々大変なんだな、というのは。ただ、これだけは言っておきたいが……これからどうするんだ? はっきり言ってこれから手詰まりのような気がしてならないのだけれど」
貧民街に行って得られた情報は僅かだった。そして、その僅かな情報から次のプロセスを導き出すことは容易ではなかった。
容易ではないからこそ、やはり――簡単にはクリア出来ない課題というのも存在する。
「一つ、アイディアはある。……けれども、これを実現するのはなかなか難しい。やはりこれから考えをまとめていかねばなるまいとも思っているから」
「それじゃあ、今回の調査隊はここで解散?」
マナの言葉に、アンバーは頷くことしか出来なかった。
「残念だが、今回はそれしか考えられないね。……仕方ないとは言いたいところだが」
アンバーの言葉を切り裂いて、ジリリリとけたたましいベルの音がカフェテリアに鳴り響いた。
それが電話の音であることは、ユウト達は理解していたものの、こんなに五月蠅い音が鳴るとやはり驚いてしまうものだ。
「……個人用の電話というのも、開発して欲しいものだけれどね。技術的には難しいのかな?」
「昔は……旧文明の頃はそういうものがあったらしいよ。肩に掛ける鞄型が主流だったとか? その後にコンパクトになって、小さい箱が人々のポケットに入っていた――なんて話も書いてあったかなぁ。そこには沢山の機能が備わっていて、人々は移動する手間すら省くことが出来た、みたいな」
「マナ様でいらっしゃいますか?」
いきなりウエイトレスに声を掛けられたマナは、少し目を丸くしてしまったが、それに頷いた。
「ハンス様からお電話です」
「ハンスさんが? ……分かりました、今そっちに向かいます」
マナはカウンターの方に向かい、電話の受話器を手に取った。
「もしもし、マナですけれど。……どうしてここが?」
「アネモネのマスターに聞いたら、ここに電話をしたらどうだ、と言われたんだよ。……それはおいておくとして、今すぐ正面玄関の市場に来られるか?」
「正面玄関の市場、って……。まぁ、別に。だってここの場所を知っているなら、どれぐらいの時間でそこに向かえるかは分かるはずでは?」
「まぁ、そうなんだがな……。んで、そんな無駄話をしている場合じゃねえ。出たんだよ、また殺人事件が。一日に二回、ファントムが殺人を犯しやがった!」
「――何ですって?」
マナが知っている情報が正確であるならば、ファントムは未だ殺人を数回しか犯していない。そして、その時間間隔も不定期ではあったものの、同日に殺人を二件以上行うケースは今まで存在しなかった。
しかし、現に今、それが起きてしまっている――マナはそれを驚きを持って受け入れることしか出来なかった。
「取り敢えず、お前さんには連絡しておこうと思ってな。どうせ取り巻きの新聞記者も来るだろう? 大勢は面倒だが、あの人数なら別に申し分ない。来たいなら勝手に来るが良い。今回の事件も俺がトップだからな。ある程度の融通は利くってもんよ」
「やっぱり、持つべきものはコネね。……あぁ、今のは聞かなかったことにしておいて」
「普通のトーンで言っちまっているから聞こえているよ……。まぁ、別にそれを誰かに告げ口しようとも思わねえよ。告げ口する相手も居ねえからな。それじゃあ、俺はこれから現場に向かう。後はお前さんが決めるこったな、じゃあな」
そう言って一方的に電話を切ったハンスだった。
マナはウエイトレスに電話の利用について感謝を申し上げると、そのまま席へと戻っていった。
「……ハンスってことは、あの警官か? どうしてお前に電話を」
「どうやらまたファントムが殺人を犯したらしいわ。……一日に二件も人が死ぬなんて、ファントムはどうしてこんなことを繰り返しているのかしらね」
「そんなことを言っている場合か。……とにかく有力な情報は得られた。犯人像が見つけられるかもしれん。向かうぞ、その現場へ。案内してくれるか、マナ?」
「当然。情報料は高くつくわよ?」
そうしてユウト達は一路、ファントムが犯した新たな殺人現場へと向かうのだった。
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