第30話 捜査開始(2)

「……むむむ、情報屋に情報を買わないか? という質問を投げかけてくることは、普通に考えて凄いと思うしかないですね。その意気や良し、ということでポーションを買っても良いのですが」

「ですが?」


 ユウトはマナの言葉を反芻する。

 その流れで行けば、マナは薬師からポーションを購入するしかないのだろうが、それ以上に何かあるのだろうか。


「……マナ、ポーションなんて欲しいのか?」

「そこなのよねぇ。ポーションなんて要らないのよ。私はハンターではなく情報屋。外に出ることはあれど、ミュータントと戦うことは有り得ない。だからこそ、私はポーションは購入出来ない。だって無駄だもの。無駄なものをどうしてわざわざ購入しないといけないの?」


 正論ではあったが、薬師にとってみれば最悪の解法と言えるだろう。薬師からしてみれば、稼ぐために交渉していただろうが、その交渉相手がポーションを不要だと言っているのだから、こればっかりは致し方ない。


「……では、仕方ありませんね。この取引はなしということで」

「いや、ちょっと待って。ここにはハンターが居るの。ハンターなら、ポーションは必要不可欠だと思うわ。ねぇ、ユウト?」

「……まさか、俺がポーションを買う、と?」


 ユウトはせせら笑いながら、マナに確認する。

 マナは頷くと、胸を張って答え始める。


「だって、当然じゃない。ポーションだって数に限りがあるんだから、必要な人のところに必要な数を届けるのが普通だと思わない? そして、それに則るならば――私じゃなくて、ハンターのユウトがそれを手に入れるのが、自然な流れだと推察出来るけれど?」

「……ものは言い様だな。ただまあ、最近ポーションの数が減ってきていたから、別に悪い交渉ではないけれど」


 ユウトはそう言って、自らの財布を確認する。


「……ポーション代だけ、なら適正価格通り銀貨一枚か?」

「いえいえ、情報代も併せて銀貨五枚は頂きたいですね」

「……嘘だろ?」


 ポーションの適正価格は銀貨一枚。銀貨十枚で金貨一枚に換算出来るため、ポーション一個だけでもかなり値段は高い。とはいえ、冒険者――つまりハンターにとってみれば、体力を回復出来るポーションは命綱と言っても差し支えない。たとえそれに大した能力がなかったとしても、気休めであったとしても、ポーションが多ければ多い程安心する――というのはハンターの心理としては良くあることだったりする。

 そして、情報代がポーション四個分というのは、ユウトの然程豊かではない懐事情から鑑みるに、かなり大きな出費であることは間違いなかった。

 とはいえ、ここで情報を買わなければ先に進まないというのも事実。この宿場で、外に出歩いている人なんて見かけないのに、このチャンスを逃す訳にはいかなかった。


「……マナ、後で情報代ぐらいは払えよ」

「そりゃあもう、この情報が最終的に良い値で売れたらね」


 マナの言葉を信じ、ユウトは財布から銀貨五枚を取り出した。

 薬師は銀貨を丁寧に一枚ずつ数えてから、自分の財布に仕舞っていく。そして五枚あることを確認してから、薬師は自らの大きなリュックからポーションを一個取り出した。


「はい、ではポーションを一つ。……自家製ですからね、効果はまちまちですが。運次第とも言えるでしょうね」

「何だよそれ、初耳だぞ……。全く効果なかったらリコールするからな」

「クーリングオフはありませんので、ご承知おき下さい」

「……で、問題は情報よ。銀貨四枚も払ったのよ、さぞかし良い情報を持っているのでしょうね?」

「それはそれは! ……立ち話も何です。ちょっと、ティータイムと行きませんか? あっ、コーヒー代ぐらいは払いますよ。さっきの銀貨四枚に含めますから!」

「自分が休憩したかっただけじゃないのか、それって……?」


 ユウトの問いをスルーして薬師はストリートを歩いていく。心なしか、そのステップは軽快で、よっぽど先程の金払いが良いと思っていたのかもしれない。

 そんなことを思いながら、ユウト達は一路ハンター協会、その集会所へと向かうのだった。



   ◇◇◇



 ハンター協会の集会所、その二階はカフェテリアになっている。別にハンター以外は使えないとか、そんな面倒臭いことはしておらず、金さえ払えば誰だって利用することが出来る。よって、第七シェルターの人間にとっては憩いの場となっているのだ。


「それにしても、ここはいつも大盛況ですねぇ……。私もここのアイスクリームは大好きで、良く食べに来るんですよ」


 アイスクリームを頬張りながら、笑みを浮かべる薬師。

 対するユウト達は、アイスコーヒー――ルサルカだけはアイスクリームも追加している――のみとなっている。


「……いつになったら、私達は情報を手に入れられるのかしら?」

「まあまあ、そう慌てないで下さいよ。情報は逃げませんよ? 別に慌てたところで、何かが逃げる訳でもありませんし……」

「情報は、本当に持っているんだろうな?」


 アンバーの言葉を聞いてもなお、薬師は態度を変えることはなかった。


「またまた、ご冗談を。そんなことありませんから、安心して下さい。……きちんと情報はお話ししますよ、銀貨四枚も頂いたんですから。あ、領収書要ります?」

「あれば助かるけれど、出してくれるの?」

「出しますよー。最近は色々面倒臭いじゃないですか。ハンターだって経費に回したい、って言う人が増えているので、私のような個人経営でさえも領収書を作るようにしているんですよ。税金を安くしたいと思っている人は、思っている以上に多いですからねぇ」


 そう言って慣れた手つきで領収書をしたためて、それをマナへ手渡す。


「はいはい、どうも……。じゃあ、本題に入るわね。あなたはどんな情報を持っているのかしら? 場合によっては追加料金を払うことだって考えてあげても良い。でも、それは情報の質に依るけれどね」

 

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