第23話 見習いハンター(5)

「ルカちゃんはいったいどういうタイプの服装が良いのかな? 少しは考えたことがあるかい」


 レティシアの一言を皮切りに、ルサルカの服装選びが幕を開けた。

 とはいえ、どういう服装を選ぶのかがかなりポイントになってくるのは、幾らハンターの知識が皆無なルサルカでさえも理解していることであった。


「……ルカちゃんは結構スタイルが良いのよねぇ。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んで。スレンダーと言えばスレンダーなのだけれど、でも、世が世ならモデルにでもなっていたかもしれないわね。いっそ、第三シェルターにでも遠征してみたら?」

「第三シェルターってラスベガス大森林の地下にあるというあの巨大カジノの? いやー、あそこって確かに一度行ってみたいけれど、生活してみようとは思わないよね。だって、女性蔑視が酷いって噂もあるぐらいだし」

「言いたいことも分かるけれど、それはあくまでも女性がそういう職しか見つからないようにマッチングした上の責任ね。……私の知り合いにトップモデルが居るけれど、ハンターで暮らすよりも断然違った生活を送れると言っていたわ。ただし、管理者により近い存在になるから、顔色を窺いながら生活することになるのだろうけれど」

「……最悪。アタシなら絶対にやらないわ」


 マリーの言葉を聞いて、ルサルカは首を傾げる。


「どうして? どうして、その生活を望もうとしないのですか」

「……ルカちゃんは、分からない? 上の顔色を窺いながら、生活するって……、はっきり言って面倒臭いのよ。自由に生きられないことの苦しさは、出来ることなら経験したくはないでしょう?」

「――そういうもの、なのですか。私には全く理解出来ないのですが……」

「まあまあ、ルカちゃんと小難しい話をするためにここまでやって来た訳じゃないでしょう? 今は取り敢えず、防具と武器のテイスティングをしなければならない訳で」


 防具がかけられたハンガーを取って、それをルサルカの身体に当てる。それは鎖帷子のようなもので、しかしそれは見た目よりは非常に軽いものとなっていた。帷子というからには、身体の部分が鎖のようになっていて、少し透けて見える。


「……うーん、流石に初心者にシースルーをお勧めするのはどうかと思うけれど」

「お勧めしているのではなくて、正確には、アドバイスをしているだけなんだけれど?」


 マリーとレティシアの対立は続く。

 ルサルカはというと、レティシアから渡される防具を身体に当てて、これが良いとかこれが駄目だとか延々と着せ替え人形の状態と化していた。


「……ええと、いったい私はこれからどうすれば良いのでしょうか?」

「まあまあ、暫くはこういう形で何とか過ごして貰うしかないよ。……安心しなさいな、レティシアは割と信頼出来るから」

「割と、ってどういう意味合いで言っているのかね、割と……って」


 レティシアは何故か言葉の節々に引っかかる癖があるようだったが、しかしながらそんなことはマリーには関係のない話だった。


「……何というか、ルカちゃんってお淑やかって感じがするのよねぇ。何処かのお嬢様、みたいなそんな感じがするのよ。だとしたら、こういう普通の防具が似合わないのよね」


 レティシアから、割と核心を突く一言を言われて、ドキッとするマリー。


「え、へぇー……。ま、まぁ、確かにルカちゃんって何処か所作が綺麗だもんね。けれど、ハンターになるには、やっぱりそういうお嬢様だと難しかったりするんじゃない? だったら、やっぱり違うと思うけれどね」

「そうかな? お嬢様だって、趣味でハンターをやっている人も聞いたことはあるし。管理者側の存在でも、それを隠してハンターとして精を出している人だって居るという噂だよ。まあ、あくまでも噂の範疇を出ないし、それがそうであろうと私には何の関係もない話だけれどね」

「それはそれとして……。じゃあ、ここにはルカちゃんに合う防具はないということ?」


 マリーの言葉に、首を横に振るレティシア。


「そんなことはないよ。……うちをなんだと思っているんだ、どんなものだって金さえあれば手に入るかもしれないというビッグドリームの闇市だぜ。……ちょっと待ってなさい、良いものを持ってきてあげる」


 そう言い残し、レティシアはさらに部屋の奥へと消えていった。部屋の奥には大量の梱包がされた箱が置かれており、恐らくはそこにも防具や武器が入っているのだろう。しかしながら、そこへ入るにはそこにあるもののすべてを把握しなければならない訳で、結果として店主であるレティシア以外が入ることは難しそうだった。ましてや、そこからルサルカに合う防具を探し出すことは至難の業だと言えるだろう。


「……ルカちゃん、ごめんね。色々と引っかき回されて。辛かったら辛いと言ってくれて一向に構わないからね。一応、それは保証しておかないと、後で色々と面倒になるから」

「……ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。確かに服を探すためにここまでしなくてはならないのは大変ではありますけれど、決して悪意を持ってやっている訳ではないでしょう? でしたら、それぐらい我慢しないといけません。私も、目的を持ってここまでやって来ているのですから」


 ルサルカの言葉を聞いて、頷くマリー。


「……何だか、頭が良い発言ばかりだにゃー。別に悪いことじゃないけれど、疲れない? もっと気楽に話してくれて構わないんだよ。その方がお互いに楽でしょう? ま、ルカちゃんがどういう生き方をしてきたのかは分からないし、それを強制する気もないけれどにゃー」

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