第19話 見習いハンター(1)
次の日、ユウトとルサルカがやって来ていたのはハンター連盟の集会所だった。ユウトはハンターだから、集会所にやって来るのは別に違和感はないのだが、何故ルサルカも連れて来る必要があったのか、と言えば――。
「……しかし、ルサルカをハンターにしろ、というのは幾ら何でも突拍子過ぎるよなぁ……」
ユウトは昨晩のことを振り返る――。
◇◇◇
「ユウト。ルサルカをハンター登録させてみるのはどうだい?」
マスターからいきなり言われたその言葉は、ユウトにとっては想定外の発言だった。
想定外どころか、そんなこと考えてすらいなかった。
「……ま、マスター。いったい何を言っているんだ……?」
「何を、って簡単じゃないか。ルサルカは遺跡に居たんだろう? そして、家族を求めている……。遺跡には沢山の遺物が残っていて、それを取りに行けるのは、少なくともハンターだけだ。ハンターじゃなければ、簡単に外に出ることは出来ない。色々と申請と承認が必要だ。そして、それは非常に難しいだろうね。……ユウト、アンタだって面倒ごとは避けたいんだろう? 実際、ハンターであれば色々楽であることは間違いないじゃないか。ハンターライセンスさえあれば、外出は顔パスだからねぇ」
「そりゃあ、分かるけれどさ……。ハンターなんて簡単になれるもんでもないだろう? 特に、危険な仕事でもある訳だし……」
「何だい、ユウト。ルサルカのことを心配しているのかい?」
マスターからそう言われて、ユウトは何も言えなかった。図星だったからだ。
「……私のこと、心配してくれているの?」
「心配していなかったら、俺はアンタをずっとここに置いておくように頼まない。身ぐるみ剥がして何処かに売り払う人だって居るんだ。そんなハンターに見つからなかっただけ、運が良いと思った方が良いぜ」
「……ユウトは、貶しているのか心配しているのかどっちなんだ?」
「マスター、俺のことをあまり理解していないようだけれど……。一言で言えば、余計なお世話だよ」
マスターは、ユウトの言葉を敢えてスルーして、再び自らの仕事に戻るのだった。
◇◇◇
「ハンターライセンスの登録ですね。では、こちらの紙に必要事項を記入してください」
カウンターに向かうと、受付嬢はユウト達に用紙を手渡した。ユウトはルサルカにそれを渡すと、向かいのテーブルへと向かった。
「良いか、ルサルカ。一応言っておくけれど、ほんとうのことは書いちゃ駄目だ。生憎、そこまで個人情報を確認する場所じゃないから、別に嘘を書いたってばれやしないけれど……。ってか、ほんとうのことを書いたところで、誰も信じてはくれないだろうしな」
「なんで真実を書き連ねてはいけないのですか?」
至極まっとうなことを言われてしまい、ユウトは少したじろいでしまう。
「ええと、何て言えば良いのかな……。真実を書いて、もし誰か悪意ある人間にその情報が知れ渡ったら、それは大問題になるだろう? ルサルカの安心を脅かす危険性だってあるんだ。それをみすみす増やす訳にはいかない」
「……そういうものなのですか。では、納得しました」
それを聞いて溜息を吐くユウト。
「そう言ってもらえて助かるよ。……ええと、住所は俺が言うからその通りに書いてもらうとして――」
そうして、ユウトの必死なレクチャー甲斐あって、一時間後にはルサルカのハンターライセンス申請書が出来上がるのだった。
それを受付に持ち込むと、数分の時間を置いて、カードの形状のライセンスが発行される。
顔写真も何もない――訳ではなく、受付の際に一瞬撮影してあったそれを利用する。それが嫌なら拒否すれば別料金で撮影もしてくれるのだが、生憎ルサルカは何もしなくても整った顔立ちであったことから、ユウトはそれで構わないと思っていた。
「……はい、お待たせ致しました。ルカさん、これであなたもハンターの仲間入りですよ」
カードを手渡されたルサルカ――ルカ。何故名前を偽名にしたかというと、ルサルカの名前が何処に知れ渡っているか分かっていないからだ。古代文明の姫と同じ名前であるということを嗅ぎつけられたら、それはそれで厄介だ。そう考えたマスターとユウトは、ルサルカのハンターライセンスは偽名で登録しよう、ということにしたのだった。
ルサルカはライセンスを受け取ると、笑みを浮かべて頭を下げた。
「ありがとう、これで私もハンターになったんですね」
「はい。そうですよ。……それとこれが登録記念の準備金です。どうぞ!」
麻袋に入っているのは金貨二十枚だった。これぐらいあれば一週間は暮らすことが出来るだろうが、何も生活費のためにそれを渡している訳ではない。
「あれ? 俺がハンターになった時と比べると少し増えたような……。物価の影響とか?」
「ええ、その通りですね。物価は年々変わりつつありますから、それに応じて準備金も見直しているのですよ。年によって不利益が生まれるのは、良くありませんからね」
「成る程な……。よし、ルカ。そうと決まれば次は武器選びだ。良いところを知っている。……行くぞ」
「ぶ、武器……ですか。私はあまりそういったものを持ったことがないのですが……。ちょっとだけ心配ではありますね」
ちょっとどころかめちゃくちゃ心配だけれどな――ユウトはそんなことを頭の中で呟くだけに留めて、ルサルカの装備選びへと向かうのだった。
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