第16話 大剣使いのマリー(4)
マリーはルサルカについての話を聞き終えると、ジュースをストローで啜った。
「外をマスクなしで移動出来る……ねえ。それがほんとうなら、時代が変わるような気がするけれど。ほんとうなら、ね」
「まるで俺が嘘吐きみたいな言い回しだな?」
「あら、正直者だと思っていたのかしら? それは心外ね。アタシだって、長年ユーくんのことを見てきたつもりはないけれど、見ていた短い期間の中だけでも、ユーくんの中身は分かっているつもりだけれど?」
「……まぁ良い。それについては何も言わないよ、言いたくもないし。で、マツダイラ都市群について何か知らないか?」
「何か、と言われてもねぇ……。例えば、どんなこと?」
「例えば、行方不明者の噂があるとかさ……。どんな些細なことでも構わないんだ、ルサルカの手助けになればそれで」
「……ユーくんも随分変わったにゃー。そんなお人好しだったかにゃ? アタシと付き合っていた頃は、お世辞にもそんなこと言えるような性格じゃなかったような気がするけれど」
「若かったんだよ、あの頃は。……昔話は別に良いだろ。教えてくれないか、マツダイラ都市群の噂を。俺よりもマーちゃんの方がハンター歴は長い。だから、噂とかはマーちゃんの方が知っているはずなんだよ」
「アタシも結構一匹狼なところあるからにゃー……、でもまぁ、少しばかりは協力してあげても良いかも。昔のよしみでね」
「ありがてー話だ。聞いていて涙が出てくるぜ」
「……分かりきった嘘を吐くな、嘘を。それよりも、マツダイラ都市群についてだけれど……、ちょいと耳貸しな」
マリーがそう言ったので、ユウトはゆっくりとそちらに近付いた。
やがて二人が近付くと、マリーは周囲を見渡してから呟くように語り出した。
「……あくまでも噂だけれどな、最近マツダイラ都市群で変わった遺物が発掘されたらしいんだよ。しかも、複数人のハンターによる護衛付きだった、らしい」
「らしいらしいって……、それを実際に見た人間が居ないってことなのか? そのスタンスだと。……それとも、口封じでもされたのか」
「どうだかね。そればっかりはアタシにも分からないね。ともかく、その遺物が問題でね、遺物の正体は――鏡らしいんだよ」
「鏡なんて、そんな何処にでもあるような代物が? ……まあ、確かに遺物として認められるならそれなりに価値でもあるんだろうけれど。学者先生がその辺りどうにかしてくれたのかね?」
「そんなことは分かんないね。アタシだって、聞いた話をユーくんに言っているだけに過ぎないんだから。伝言ゲームだよ、これは……。とにかく、その遺物が噂を呼んでいる訳だよ。ただの鏡なら――遺物なら、別にハンターを複数人も雇う必要はないでしょう? ハンターは一人ないし二人で十分だ。にも関わらず、それ以上の人間を雇った。それは即ち――その遺物にそれなりの価値があるから、と推察出来る訳よ。……ここまでは分かるかな?」
「馬鹿にしているのか、マーちゃんは……。分かるよ、それぐらい。でも、それとルサルカには何の繋がりがあるんだ?」
「遺物が収集されていくことで古代文明が徐々に詳らかになっていっているのは、ユーくんだって知っているだろう?」
ユウトはその言葉にこくりと頷く。
「でも、実際はハンター風情には関係のない話だったりする訳じゃないか? 例えば古代文明の全てが明らかになったとして、ハンターとして飯が食えるか? と言われると話は別だ。下手したら、全て明らかになったら遺物がなくなってしまうのではないか――いいや、正確には遺物に価値がなくなってしまうのではないか、そう思ってしまうハンターだって、俺は幾らでも見てきた。でも、生きるのが難しい人間にとっては、ハンターというのは楽な仕事なんだよ。マーちゃんは肉体と頭脳をどちらも使うとか言っているけれど、俺なんかは別にそんなこと考えたこともない訳だし」
「……それこそ、天賦の才って奴ね。はっきり言って、今の言葉を全世界のハンターに聞かせたら、ユーくん恨まれるよ」
「かもな。……で、その遺物がルサルカに関わっているかもしれないという根拠は?」
「古代文明の話が、少しづつ見えてきた……って話はしたよね。そこに引っかかって来るんだよね。古代文明は、あの都市群を作っただけではなく世界各地を統治していたとも言われている。今の世界じゃ有り得ないぐらいの科学技術で、強力な権力をもってやってきていたと言われているの。……でも、そこで疑問が浮かばない? どうしてそこまで強い力を持った文明が、そんな簡単に消滅してしまったのかを」
「……そりゃあ、人間だ。色々あったんじゃねーのか? 例えば、戦争とか……。このシェルターや、シェルターの外の環境がそれを物語っているだろ。この世界の環境を変えてしまう程の、何かがあったんだよ。そうしてそれによって、文明の人類は滅んでしまったんだ。……そうしたら、戦争しか思い付かないけれどな?」
「ルサルカという名前を聞いて、ずーっと引っかかっていることがあったのよね。その名前、何処かで聞いたことはなかったか? って」
少しだけズレているようで、ズレていないような会話が続く。
しかし、その会話はやがて一つの終着点を迎えることになるのだった。
「古代文明の姫の名前が、遺物から明らかになっているのよ。その名前はルサルカ。……ねえ、それって偶然にしてはあまりにも出来過ぎていないかしら?」
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