第14話 大剣使いのマリー(2)

 ハンター協会の集会所の二階はカフェテリアになっている。そこで飲み物を飲んだりスイーツを食べたりすることも出来るため、ハンターにとっては憩いの場となっている。しかも、料金はクエスト受注後の支払いにも対応しており、たとえお金がなかったとしても、飲食を楽しむことが出来るのだ。


「……それにしても、お前甘い物ほんとうに好きだよな……」

「スイーツは良いんだよ。糖分を摂取するというのは、エネルギーを蓄えることでもあるのだし。脳を使うなら、糖分を取った方が良いって訳」

「……そんなに頭を使う仕事とは思えないのだがな。で、何処から話すべきか……」

「ユーくんが話したいなんて言うのは久しぶりのことだからにゃー。別れた時以来かな? アタシは別に拒んでいなかったけれど、そっちが勝手に拒んでいたというか離れたがっていたというか。いずれにせよ、あんまり良くはなかったにゃー。集会所でも何となく噂になっていたし」


 ハンターの間では噂になることが多い。それが恋愛ともなれば格好の餌食だ。だから極力そういう話はしない方向に持っていくのが筋だったりするのだが――。


「噂なら話したい奴が話せば良いだろ。別にこっちには関係のない話だ。それとも、元恋人同士がタッグを組むのは気まずいとでも思っているのかね? だとしたら余計なお世話だ」

「余計なお世話、という理屈は分かるんだけれどねえ……。そりゃあ、こっちだってそう思っているよ。けれど、変に囃したてるのが周りってのは、ユーくんだってこのシェルターに住んでいたら分かる話じゃないか。周りが囃したてるから、猶更居づらくなる。……悪循環だよ、はっきり言って」

「……人間ってのはどの時代でも、そういう噂が好きなのよね。あー、めんどくさ。旧文明の遺産を探していると、少しはそういう面倒臭いのも払拭出来るものかと思ったけれど、そうでもないしね」

「お待たせ致しました」


 ウエイトレスがやって来て、マリーは目を輝かせた。理由は単純明快、そのウエイトレスが持っているパフェだった。正確に言うと、ウエイトレスはトレイを持っていて、そのトレイにはパフェとジュース、それにアイスクリームとコーヒーが載せられている。どちらがどれを注文したかは火を見るより明らかで、パフェとジュースがマリー、アイスクリームとコーヒーがユウトだった。

 パフェはマリーの顔ぐらいの高さまで、様々な食材が積み上げられている。それだけで一食分以上のカロリーを賄えそうなぐらいだった。


「……何か見ているだけでお腹いっぱいになりそうだよ。アイスクリームにコーンフレークにプレッツェルにフルーツ……、なかなか食べられないような代物をこれでもかとふんだんに入れているけれど、値段は実際幾らぐらいするんだ?」

「ユーくんが居る宿の一泊分ぐらいするんじゃないかな? あ、ユーくんは未だあの宿に居るんだよね? 今度挨拶に行こうかな、マスターに」

「マスターか? ああ、良いんじゃないか。忙しいだろうけれど、挨拶ぐらいなら応対してくれるだろ。それに、新入りも入ってきたし」


 それを聞いて目を丸くするマリー。


「何それ、あそこに新人が入ったの? 珍しい……、マスターって人を雇っていくような人間には見えなかったけれど。ワンマン経営みたいな」


 スプーンでアイスクリームを掬うと、それを口の中に入れる。マリーは笑みを浮かべ、嬉しそうな表情だった。


「やっぱりこれよ、これ! ここのパフェって一番美味しいと思うのよね……。ハンター協会が何処から仕入れてきたか分からない新鮮なフルーツを食べられるから」

「それ、逆に不安にならないか? 何処から仕入れてきたか分からない物を、そのまま口に入れるって」

「それは言い過ぎだけれどね。実際は管理者の余り物を安く提供しているんでしょうけれど」


 資源問題は深刻だ。基本的に一流品と呼ばれる代物は、管理者層を優先して提供される。しかしながら、管理者層が食べきれないぐらいの量が生産されるようになってしまうと、それを確保しておくのではなく、ハンター協会に引き渡すことになるのだ。

 ハンター協会としても、一流品の材料を提供してもらえるのは有難いことで、たとえ高く仕入れたとしても資源問題の観点から、それをそのままほったらかしにするのは宜しくない。よって、このようなカフェテリアで多少高くとも美味しい食材を使った料理を提供するに至っている。


「……ハンターによっては、ここの料理が美味し過ぎて、まともに貯蓄も出来ていない人が居るとか聞いたことがあるけれど、何処までほんとうなのかね? ぶっちゃけ、ハンターという仕事もいつまで続けられるのか分かったものじゃないし、貯蓄はしておいた方が良いと思うんだけれどな」

「……それに関しては完全に同意するわ。実際、ハンターがいつまで遺物を収集出来るか、ということにもなるし。この世界は、遺物が無限に存在する訳でもないんだから」


 ハンターの業界は、先細りが懸念されている。というのも、一番金払いが良いクエストが遺物収集で、他のクエストは遺物収集のクエストがあって成り立つぐらいの物だ。資金源が遺物収集である以上、それ以外のクエストは小遣い稼ぎ程度にしかならず、その小遣い稼ぎだけで生きていけるのは到底不可能だと言われている。

 とはいえ、根本的な解決策が見つからないのも問題だ。実際、ハンター協会も手を拱いているところはある。遺物収集を長く続けるために、そのクエストをコントロールしているとか、遺物を敢えて少なく見積もってクエストを依頼しているとか言われているが、それはあくまでも噂の範疇を出ない。

 

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