第7話 王の依頼
「あんた、魔術師より学者でもやってたほうが良かったんじゃないか?」
前述したようにどこの国でも同じようなことを頼まれてきたラングは気にせず言った。彼ならさぞかし白衣も似合うであろう。
「自分でもそう思いますよ」
「それで黄金竜の話はまた、別件なのか?」
「いえ、その布石とも言うのでしょうか。竜の血には特別な力があって……あぁその前に、その竜が暴れまわっているといううわさをご存知ですか」
「聞いたことも無い」
レダークが即答する。
「騎士団ひとつ、まるまる殺られました。その退治を兼ねて、お願いしたいとの話を聞きかじりまして」
「あぁそれで憶測なわけね」
「そりゃ一介の宮廷魔術師ごときが王から勇者様へのお願いを初めから終わりまで知ってる訳無いじゃないですか」
あっさりとウォルドはかわした。彼は王宮から放たれた勇者探しの手駒のひとつでありただの案内役に過ぎない。そういうことだろうがわざわざ自分をごときというところが見事に逆効果をかもし出している。
「黄金竜……」
レダークが困ったように呟いた。
「さきほどレダーク殿は東の、とおっしゃりましたがおそらく王が狙っているのは西の方だと思いますよ」
「そんなにドラゴンがいるのか、この国は」
「そうですね、南の方には火竜の谷もありますし、よく黒い飛竜が西の方からやってきたりもしますね」
「……」
レダークは更に渋面した。
「さぁ、着きました。ここからはお二人で」
といわれつつ侍女に引き継がれて二人は短い柱廊を歩んだ。
「ラング、この依頼受けない方がいい」
「何? ひょっとしてすごく狂暴だったりする?」
見た目には軽く、実際はかなり警戒を込めていう。そんな依頼をラングは受けないと知りつつも警告をするからには何かあるのだろう。
ひそやかに言ったレダークはその問いにただ首を振った。もうすでに彼の大国グラスキングダム王の御前だった。
「よく来てくれた、勇者ランギヌス」
お決まりの歓迎のおコトバ。直後は堅苦しい座に配慮した、その実、逃げられないようにといった意味にも使える食事の座に場を移して話は進む。
「さて、話というのは他でもない……」
「断る」
……。
は? といった空気が辺りを支配した。無下もなく王の頼み(すらまだしていない)を寸断した青年の言葉に一瞬遅れてざわめきがやってくる。しかしさすがというべきか大国の王も退きはしなかった。
「さすが噂に名だたる勇者殿だ」
鷹揚にうなずいて顎に貯えたひげなどなでる。ご立派。それに対して先手を取ったのはまたしてもラングであった。
「残念ながらあんたらの期待する力は持ち合わせていない」
「それはどういう意味かね」
「そのままコトバのとおりだよ」
レダークも初めて聞く言い分だった。
「勇者としての力がない、ということか?」
「ま、そんなところで間違いない。それでもオレにドラゴン退治を頼むかね」
「な、なぜそれを……」
ウォルドの予想は当たっていたようだ。そばで控えていた青い帽子の魔術師らしき男がうめくように呟いた。王は努めて冷静に
「ふむ、だが君の技量は間違いない。そういう理由でならひきうけてくれるかね」
「……」
沈黙。なんたることかラングは両手を挙げふいに唇の端をつりあげると、いともあっさり折れた。
「いいだろ、引き受けるよ。詳しいこと話してくれないか?」
周りの反応はといえばとうとう、といった感じである。領主は愚か、王の世界平和的な頼みなどききいれたことも無いラングが。
何を期待していたのか拍子抜けしたような顔をしているような者さえいる。いちばん驚きを隠せなかったのは他でもない、レダークであった。
「どうして引き受けたんだ?」
レダークが真剣に問い詰めてくる。あてがわれた一室の出来事である。
「だって……ひきうけないほうがいいっていっただろ」
「……それでどうしてひきうけるんだ」
今度は心底分からないといった顔。物静かな割にレダークの表情はよく変わる。それがおもしろそうにラングはけらけらと笑いながら答える。
「やれといわれてやらない方が正解だった試しが多い、つまりそういうこと」
要するにあまのじゃくなわけか?
「まぁあとは直感かな、大体、極微小でも王族の要求で興味が向くなんて珍しいことだぜ?」
まるで他人事だ。興味が向いた原因はほかでもない相棒のやめたほうがいい、という一言であったということになんとなくレダークも気づいてはいる。しかしラングが今回『契約』したのは黄金竜の件までだ。さすがにわけのわからない異界の路への探索まで付き合う気はさらさらないらしい。
「今回に限っては他にもいろいろあるな……まず黄金竜なんて見たことない」
「だろうな、一番小さいものでも体長が五十メートルって知ってたかい?」
「全然」
となるとますます見てみたいものだ。古竜などだったらまさに一生に一度見られるかどうかというところだろう。
「それと」
ラングが一層上機嫌に笑う。
「あの王、今までの奴等の中じゃ一番動じなかったけど絶対大国の威厳とやらを意識してるだけだぜ? その化けの皮はがれるとこみたいよな」
……性質悪……
「どうでした? ラング殿」
そんなことを話しているとウォルドがあてがわれた部屋に訪れた。彼の中で何があったのか、フランクな呼び名に変わっていた。
「どうって……何が」
「いや、何がといわれても」
素直な感想を述べたラングにウォルドは苦笑する。
「依頼、承知したようですね。珍しいじゃないですか」
「自分でもそう思ってるよ」
ウォルドの情報網は意外に広いようだ。明らかに前からラングの動向を知っているような口調で言ってから今度はレダークに顔を向けた。
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