第13話 政治プロセス分析チーム :2022年8月
(政治プロセス分析チームのミッションが明かされる)
2022年8月。東京。G社オフィス。
政治プロセス分析チームは、G社の社内プロジェクトである。G社は、将来のビジネスチャンスをものにするために、新しいアイデアの社内プロジェクトを常に募集していた。洋子は、G社に勤めて、5年目であるが、「IT技術を使った健全な政治システムの構築とサポート」をするために、選挙や政治向けのITアプリケーションを開発するプロジェクトを提案して、採用された。
「チーム長を仰せつかった南山です。
これから、政治プロセス分析チームの最初のミーティングを始めます。
最初に、政治プロセス分析を説明します。それから、質問、改善提案をしてもらいます。
画面に、1枚の資料を表示しています。中央に縦線が入っていますが、この線の左が、従来の政治プロセスです。この線の右が、今回考える政治プロセスです。
最初に従来の政治プロセスを見ていきます。
左の下に、道路の絵が載っています。1960年代の日本では、道路は舗装されず、高速道路もありませんでした。こうした状況では、『道路を舗装します』、『高速道路を建設します』という公約を政党が提出して、有権者が公約を見て政党を選ぶという手法は有効です。道路などの社会資本が圧倒的に不足しているときには、公約は、社会資本をピックアップすればよかったので、誰もが、公約を簡単につくれました。年金や、医療保険も、諸外国との比較表を作って、水準の低いところを埋めればよかったのです」
「それなら、小学生でもできますね」
渡辺が言った。
「そうです。公約を作るには、頭はいらない。政治家は体力があって、仲間づくりが上手ければよかったわけです。派閥というのは、こうした時代に発達したシステムです。
一般には、バブル以降の1990年代に状況が変わります。ハコモノはかなり行き届きました。これからは、人口減少が進むので、維持管理費の捻出が難しくなります。こうなると、政治課題は、ハコモノを撤去する順番の決め方になります。
バブル以降、障碍者やLGBTQへの配慮が問題になってきています。こうした問題がそれまで取り残されてきたのは、多数決という政治ルールが、マイナリティの課題を切り捨ててしまうためです。障碍者への対応は、社会資本の整備率が上がって、社会資本の量よりも、質に目が行くようになった結果です。しかし、現在の政治の基本が多数決原理であることには変わりがないので、表面に出ていないマイナリティのかかえている重要な課題はまだまだあると思います」
「全てのマイナリティの課題に対応することはできないと思いますけど」
山川が、口をはさんだ。
「政治プロセス分析チームのミッションは、問題を直接解決することではなく、問題解決を容易にするツールを提供することです。
皆さんが、ネットで商品を購入する場合を考えてみてください。
欲しい商品を検索して、ヒットしなかった時にはどうしますか」
「それって問題ないですよね。ページの下の方に、お薦めが表示されますから」
木本が言った。
「そうです。ポイントは、そのお薦めです。商品の購買には、お薦めがあるのに、政治課題には、お薦めがありません。政治プロセス分析チームは政治課題にもお薦めを導入する視点に立ちます。つまり、類似の政治課題をグループ化したり、同じような政治的な悩みを持つ人を、ひとつのグループとして扱えれば、多数決によらない細かな政治的配慮が可能になります。こうした数学的手法は、商品のお薦めシステムの開発で発展しました。難問があった時には、新しい数学的手法を使って、システムで解決を目指す。これが、政治プロセス分析の考え方です。
それから、選挙の時には、政党は公約を掲げます。皆さんは、公約を見て投票します。でも、公約は実現しない。投票者も、そのうちに、どの公約に賛同して、投票したのか忘れてしまう。政党も、時間が経てば、有権者は公約のことを忘れるのだから、その場しのぎの公約を作ればよい。このようなケースが多く見られます」
「それは、ザルで水をすくうような話ですね」
木本が言った。
「ええ、一種の無間地獄です。でもこれは、止めないといけない。止めるには、どうしたらよいと思いますか」
「急に、止めろって言われても難しいです。簡単に出来るのであれば、既に、解決しているはずですもの」
木本が言った。
「みなさんが三日坊主にならないように、会社では何か工夫をしていますか」
「最初に勤めた建設会社では、ガンチャートで工程管理をしていましたけど」
山川が言った。
「カレンダーに横線を入れるようなガンチャートによる工程管理も良い方法だと思います。ポイントは、公約のリストを作り、常に、その進捗がわかるように、情報開示することです。ここ中断し、20分後に、再開します」
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