ゼロリセット計画物語(スマホ版)
@Blue_Swan
第1話 パリの白いマロニエ:2022年5月
(南山洋子が、パリのフランス独立党を訪れる)
2022年5月。フランス。パリ。フランス独立党オフィス。
洋子は、シャルル・ドゴール空港の到着ロビーを出た。
「5月のパリは、マロニエの白い花が満開で、もう最高だわ」
洋子は、フランス独立党オフィスで打ち合わせの予定である。
南山洋子。27歳。黒い目、長めの黒い髪の持ち主である。
洋子は、大学を卒業後、IT企業のG社で働いて、今年で、5年目になる。仕事は、言語要約システムを開発する言語分析プロジェクトである。プロジェクトは、AIを使って文章や発言を要約する。扱っている要約問題では、キーワードを与えて、効率的な要約を作る。日本語には、単語区切りがない、同音異義語が異常に多いなど、ヨーロッパ言語にない分析の難しさがある。このため、プロジェクトは、最初に、英語などのヨーロッパ言語で、システム開発を行い、次に、日本語版を開発していた。ヨーロッパ言語版は、販売中だが、日本語版は、問題があり販売できていない。
今回、フランス独立党から、フランス語版の引き合いがあった。チーム長は、日本語版の問題解決で手を離せず、洋子に順番がまわってきた。
党首の部屋に近づくと、ドアが開いて、40代後半の栗色の髪の毛の女性が出てきた。一瞬、女性の動きが、ぎこちなく見えたが、直ぐに普通に戻って、挨拶をした。
「南山さんですね。お待ちしていました。私は、フランス独立党の党首のジャクリーヌ・ルパンです」
「G社で、言語分析プロジェクトを担当しています南山洋子です。お目に書かれて光栄です」
「南山さんは随分お若いですね」
「言語要約システムのチーム長が、手が離せず、来られなかったのです。日本語版に問題が残っていて、チーム長は、対応中なのです」
洋子が、党首の部屋に入り、カバンから、タブレットを取り出した。
「打ち合わせを録音させて頂いてもよろしいでしょうか。録音内容は、文字化して、音声データは、削除します。会議録は、チェックして頂き、本社への報告に使います」
「了解しました。会議録のコピーは頂けますか」
「もちろんです。それでは、録音を始めます」録音機能がオンになった。
「今回は、G社の言語要約システムを使って、政策要求を要約したいのです。フランス革命の前には、人の運命は、生まれついた身分で決まっていました。革命の後、資本家階級と労働者階級への分離が始まりました。それが、最近では、高等教育を受けた『高等教育階級』と、高等教育を受けられなかった『イエローベスト階級』に分断されています。有権者は、イエローベスト階級が多数です。そこで、フランス独立党は、イエローベスト階級の要求を、G社の言語要約システムで管理したいのです。イエローベスト階級の発言は、理路整然としておらず、要約が難しいのです。今日は、この目的で言語要約システムが使えるか、聞きたいのです」
「言語要約システムの基本的な仕組みは、まず、『音を単語に、単語を文章に、文章を段落』に変換します。これは、聞き取りに相当します。次に、要約として『段落を文章に、文章を単語』に逆変換します。言語要約システムは、この順方向と逆方向の推論を繰り返して要約を作ります。
言語要約システムの性能は、利用環境と、付帯条件に左右されます。G社は、カスタマーの音声データをシステムに学習をさせて、出荷しています。学習期間は2週間から4週間です。4週間経っても、実用に達しない場合には、販売契約はしません」
「なるほど、テストして、使用に耐えるか評価するわけですね。でも、正直なところが気に入ったわ」
「テスト・データはありますか」
「課題は、まだ、その前です。データの集め方を決めていません。何かいいアイデアはありますか」
「最近、発言記録が残らない、アクセスが制限されているというインターネットの特徴を逆手に取ったサービスが人気を得ています。当社の言語要約システムを使えば、発言記録が残さずに、結果の要約だけを残せます。一方、テスト・データの発言記録は、システムの学習には必要です。発言記録が、暫定的に保存され、システムの学習に使われた後で、消去されるルールがいるでしょうね」
「なるほど、後発であれば、『記録が残らない、アクセスが制限されている』いう逆手が有効なわけですか」
「そういうことになります」
といって、洋子は、間を取ってから言った。
「既に、政党のITシステム担当会社があれば、そちらと、ご相談ください」
「わかりました。まずは、テスト・データに向けた検討を進めましょう。今日は、私の知らない新しいことが沢山出て来ました。前向きに検討して、出来るだけ早く、ご連絡を入れると、本社にお伝えください」
「わかりました。ありがとうございました。これで、録音を止めます」
録音ボタンが再度、押されて、録音は停止され、音声データのコード変換アプリが起動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます