考察雑記

みし

アーサー王伝説

 アーサー王伝説が概ね完成するのは12世紀~13世紀頃である。同時期は騎士道モノが流行っており両者が混交するのは自明と言えた。そして15世紀後半のマロリーの「アーサー王の死」が集大成と言える。


 しかしアーサー王伝説の肉付けは大ブリテン(イングラド、スコットランド・ウェールズがあるグレートブリテン島)ではなく小ブリテン(フランス・ブルターニュ地方のこと)で行われている様である。


 その過程でフランスのシャンパーニュやノルマンディなどで作られた無関係な騎士道物語が組み込まれた様だ。これはアンジュー帝国時代にイギリスの伝承が入り混んだ可能性が高い。コーンウォールのケルト系が小ブリテンに移住した時に持ち込んだ可能性もある。



 12~13世紀のアーサー王伝説は、ケルト系のコーンウォールやウェールズの伝承がベースになっているものの実質フランス文学であり、イギリス文学では無い。イギリス文学になるのはマロリーがまとめたもの以降だろう。


 アーサー王の時代は5~6世紀とされているが、アーサー王物語の中身は12世紀である。ちなみにアーサー王のモデルとされているルキウス・アルトリウス・カストゥスは2世紀の人。


 なおアーサー王のベースの1つと言われる『ブリタニア列王史』に記されているブリタニア王にはローマ皇帝が何人か含まれている(カラカラ帝とか)。選定基準はよく分からない。


 馬上槍試合は5世紀にはない(12世紀ぐらいに流行ったらしい)、そもそも8世紀まで鐙が無いらしい。


 当時ブリタニアにはローマの残党とローマ化したブリトン人とケルト人が住んでいてサクソンとかいう蛮族がそこにやってきた状態であり、キリスト教もあまり信じられていないし、ラテン語が公用語で英語は存在すらしない(蛮族が話していたのは古代ドイツ語の方言)。


 キリスト教化はアイルランドの方が早く(5世紀)、イングランドは遅い。アイルランドからのイングランドへの布教は失敗しており本格的には始まるのは7世紀とされる。つまりアーサー王が存在していたとされる5世紀の要素は、ほとんどなく物語の書かれた時代(12~13世紀)の風俗で物語の大半が書かれている訳である。


 アーサー王の登場人物にフランス人がやたらと多いのは、フランスの西半分がアンジュー家の所領でイングランド貴族にノルマンディ系が多いと言う当時の事情を考えると当然かも。なおランスロットの話はシャンパーニュあたりで書かれたらしく、イギリス要素が非常に薄く、フランス要素がかなり強い気がする。


 

フランスで二次創作がはかどった所為なのか剣を抜くエピソードがやたら多い。そのためエクスカリバーと抜いた剣は本来関係ない無いのだが、どこかで混同した様である。


 剣を抜くエピソードはアーサー王が有名だが、ベイリン、ガラハッドなども剣を抜いている。かなり安売りされているエピソードよ。



 それはともかく、物語の詳細は書かれた場所での特徴が出やすい気がする。フランスの手にかかると女にだらしない、ケルト系はろくな死に方しない、ドイツは昼ドラ。(シャルルマーニュ伝説は、フランスではなくイタリアで魔改造されたので頭のネジが抜けた気が……)


 フランスっぽいと思うのは、ロベール・ド・ボロンの『メルラン(マーリンのフランス語読み)』(13世紀・フランス)で、司祭が間男しているところをマーリンが見破っているとこ。やっぱ性職者。


 全部まとめると、女にだらしない騎士が昼ドラ展開し、ろくでもない死に方をする話になる(聖杯探索はこれに対するアンチテーゼか。聖杯探索って、童貞しか天国に行けない話だし)



 結局、円卓と言うサークルが、オタサーの姫の所為で崩壊する話なのだ。



 これらの物語は何種類ものバリエーションが数多く存在していた様で、それらをまとめたのがトーマス・マロリーであるが、似たような話が重複するなど混乱がみられる。


 それ以上にマロリーはアーサー王伝説の中核である、侵略者であるサクソン人に対抗するブリトン人と言う要素をあえて削っているフシが見られる(その所為か話の焦点がはっきりしなくなっている)。


 アーサー王伝説をケルトvsゲルマンと言う対立軸にすると英国王室や貴族の正統性を全否定することになるからかな?百年戦争後でイングランドと言う国のアイデンティティーが必要になったのもありそう。



 どうでも良いけど、アーサー王死後を舞台にしたノーベル文学賞受賞者カズオ・イシグロの「忘れられた巨人」では蝋燭作っているので、中世舞台に蝋燭で俺すげーしちゃ駄目。



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