大臣の策謀により王国を追放されたUMA姫ですが、なぜか最強の少年魔剣士に懐かれ悠々グルメ旅をしています。でも最近なんだか彼の私を見る目がおかしい気がして、その疲れからか黒塗りの高等竜に衝突してもう遅い

和田島イサキ

〈1〉

 おとぎ話の定番から考えるに、騎士ナイトは姫を守るものだと思っていた。

 現実は違った。事実、いま彼の背中はどんどん小さくなって、つまり可能性はふたつにひとつ。彼が騎士ではなかったか、それとも私がお姫様ではなかったか。あるいはその両方、というのもあるかしれないけれど、しかしいずれか一方の条件を満たすだけでこの状況に説明がつくなら、せめて残りの一方くらいは信じてあげたいと思うのが人情ってものだ。

 答えは簡単に出た。彼、魔剣士パリエは騎士ではない。

 なぜならこの私、琥珀姫アリーサが姫でないはずがないのだから。


 私はとある小国の王家に生まれて、しかし結果としてその身分を剥奪された。

 なにゆえか。その辺は長くなるので簡潔に済ませるけれど、単純に見た目が良すぎたのだ。長く柔らかな白銀の髪に、琥珀の輝きを湛えた瞳。肌は鮮やかな赤褐色で、目鼻立ちはそれこそ神話の美姫が如し、なにより背が人一倍高かった。大体、一般的な成人男性の一・五倍。まあ仕方ない、私はその辺がちょっと特別というか、具体的には脚の数が人より多かった。

 四本。腰から下が、こう、馬の胴体のように。いや「ように」というかまさに馬そのもので、でもこれが世間知らずの箱入り娘の恐ろしさか、「まあそんなものよね」くらいの感覚で生きてきた。これは個性だ。人間、みんな違ってみんないい。だいたい数が何本だろうが脚の役割は一緒、なら実質的な差は微々たるものだ。より重要なのは見た目の印象、例えば顔なんかはどうだろう? 私の麗しい花のかんばせと、大臣のヒゲモジャのそれ。さて脚の数とどっちが生き物としての違いを感じるかといえば、やっぱり顔の方だと思う。

「なんというか、怪物みたいですのね。ハゲた猿の怪物。プギャー」

 怒られた。それはもう滅茶苦茶に、もう一生許さないってレベルで激昂された。この大臣、国王たる父からの信頼も厚く、そこを敵に回してしまったのが運の尽き——と、最初はそう信じて疑わなかったのだけれど。どうやらそういう問題でもなかったらしい、と、その事実に気づかせてくれたのが父の言葉だ。

「ちょうどええ機会やし、前々から気になってたこと言わしてもらうけど。アリーサ、お前、絶対普通の人間とちゃうやろ」

 脚多すぎんねん、脚ィ——と泣き崩れる父の、その複雑な心境をしかし、その日までまるで考えもしなかったこと。「脚多いよな……」「誰もなんも言わんけどアレ絶対脚多いやんな?」と日々訝りながら過ごした、その十六年間の孤独が果たして如何程いかほどのものだったか。それをわかってあげられなかったことに、私は少なからず反省した。反省している。少なくとも今現在、追放から二年ほどが経過したこの瞬間は。

 逆説、その当時はまだわからなかった。「おとん、どしたん?」と、あるいは「おなか痛い? 飴ちゃんあげよか?」と、いやこうして思い出すだに思うのだけれど、こんな〝根本的になんもわかってないやつ〟、王宮を追放されるのも仕方がない。

 それでも、父は言ってくれた。脚が多くてもええ、多少人と違ってもお前は大事な娘、あいつの残してくれた一粒種や、と——ちなみに母は私が生まれてすぐ夭折ようせつしており、理由は誰も教えてくれなかったが今なら「馬なんか産んだからだわ」と察しがつく——そう涙ながらに熱弁して、でも口の中の飴ちゃんをしばらくモゴモゴさせた後、

「それはそれとして、これはケジメや。琥珀姫アリーサ、お前は今日をもってこの王宮を追放とする」

 と、急に「スンッ」とした顔で言い切った。スンッというのはスンッだ。さっきまでギャンギャン泣き喚いていた子供が、急にケロッとした真顔に戻る瞬間を表す擬音語。


 かくして、哀れ麗しの琥珀姫は、あてどない旅へと出ることになる。

 王国始まって以来の罪状、〝脚の数はともかく性格がクソすぎる罪〟の罰として。

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