第10話 日常からの…

 新潟から帰ってきて、翌日からはもちろん上野さんはお仕事。私はもちろんいつも彼の手首に。


「今日は、撮影だからカバンの中で待っててね」

楽屋で彼は、優しく声をかけてくれた。

 外して私を置いていく時は、必ず声をかけてくれる。私が状況を把握して心細くないようにと彼の優しい配慮。そして、撮影が終わると真っ先にカバンから私を出してくれて、

「ただいま、お待たせ。今日はね…」

と、撮影の話や、共演者さんのお話など、色んな話をしてくれる。もちろん、他の人が楽屋にいない時に限るが…


 寝る時も側に置いてくれる。今まで腕時計を枕元に置いていたのかは不明だが…

「おやすみ…」

と本当に大好きな声で囁いてくれる。


こんなに、ほぼ24時間一緒に過ごして、お話もできるなんてこの上ない幸せである。

 彼は、気を遣って優しさで私に沢山話しかけてくれるのか、それとも私と話すのが楽しいと思ってくれているのかどっちなのかは怖くて聞けない。けど、この幸せを噛みしめながら日々を過ごしている。いつか私がどうにかなったらこんな日々はきっと終わってしまう。そんな不安をいつも片隅に置きながら…



 ある日、収録現場に向かう途中である。

街中ではさすがにあまり、会話はしない。けど、見えてしまった。

彼の後ろで車の事故を…。

「危ない、避けて…」

私は、思わず叫んだ。もちろん彼にしか聞こえないが…。

私の声に反応した彼が、間一髪のところで弾き飛ばされてきた車を避けることができた。彼とは違う視界だから、気が付くことができた。

「ありがとう…。本当にありがとう。命の恩人だよ」

と人目を気にせずお礼を言われた。

 その言葉を言い終わったと同時に、彼は体が動いていた。事故に遭った人を助けに行くために…。車の破損は大きかったが、意識もあった。救急車が来るまで彼は、待ち警察にも状況を説明をしてからその場を去った。








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