第8話 病院
私が住んでいるのは新潟県N市、病院もそこにある。
東京からは、新幹線一本、数時間で行けるから、新潟出身だった昔の総理大臣に感謝したいところだ。
新幹線の中、すごく緊張していた。私も上野さんも…。周りに人もいたせいかほとんど会話はせず、道案内をした程度。
(だって私…どんな状況でいるわけ? え?大好きな上野さんにすっぴん見られるわけ?白雪姫のように美しく寝てるわけじゃないだろうし…40過ぎたおばさんですけど…私に会わせたくない…)
そんな思いで一人心の中でワーキャー騒いでいた。
駅からバスで20分ほど行って、病院に着いた。前もってショートメールで旦那と待ち合わせをしていたらしい…。
上野さんは、旦那に腕時計を見せた。私もダメもとで旦那の名前を呼んでみたけど、旦那には聞こえてない。
「お名前、宏隆さんなんですね」
と、上野さんが言ったら
「え?もしかして、今うちのがしゃべったの?」
と、旦那が驚いていた。名前までは名乗っていなかったので、本当に私がここにいるんだと信用してくれたようだ。
いよいよ、病室か~と思っていたら、まだ家族以外は病室に入れないようだった。少し胸を撫で下ろした私。
(私の姿見られなくて良かった…)
腕時計を旦那に渡し、腕時計の私と旦那だけが病室に入った。久々見る自分の姿…っていうか、こんな角度から自分を見るのは初めてだ。点滴などで、もっとむくれたりしているのかと思ったら、今にでも起きてきそうな、意外と自然な状態だった。
「おーい、私。そろそろ体に戻りたいよ」
と、言ったりしてみたけど何の反応もない。旦那も腕時計と私を隣に並べてみたり、くっつけてみたり色々したが、5分ほどで旦那も病室を出た。
「腕時計、どうしますか?」
上野さんが切り出した。
(だって、大事な物だよ。置いておくとかできないよ)
「ここに置いておいても妻の声は誰も聞いてくれない、唯一あいつの声を聞くことができる上野さんに持っていて欲しい」
旦那は、少し迷いながらもそう言った。
そして、上野さんは腕時計の私を見ながら
「それでいいの?自分の体の傍じゃなくて…」
きちんと私にも確認をとってくれた。
「私も自分の声が聞こえる人と一緒に居たい、迷惑じゃなければ…」
結論が出て、私と上野さんは病院を去った。
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