第12話 赤ん坊の泣き声
周囲の敵は、
山小屋に戻ると、小屋の外にサイが銃持って立っている。
サトミの姿を見ると、手を上げてウンザリした顔で銃を下げた。
「
「あんたも生きてりゃ合格さ。中、準備どうなった?」
小屋の中からは、大人たちが言い合いしている声がひっそりと
サトミが
仲間の兵2人、夫人の
「何やってんだ、何言い合ってる?!」
兵に問うと、看護婦がサトミに声を上げた。
「子供を置いていくって言うのよ!この人たち!今生まれたばかりなのに!」
「は?なんで?それじゃ意味ネエじゃん?」
「うるさい!ガキが
兵はやけに
サトミが見回し、1人に聞いた。
「あんたら、あと3人どうした?」
2人はうつむいて、返答に
「現状は、ここにいる俺達4人だ、状況が変わった。
子供は………」
夫人の手の中の子供が、泣き出した。
夫人がなんとかなだめようとあやすが、なかなか泣き止まない。
どうしようもなく、兵の一人が首を振る。
「ここで赤ん坊を連れて行けば、容易に位置を
確かにこの子を置いていけば死ぬかもしれない。
でも、子供はまた生まれる。
それに、あいつらも同じこの国の奴らなら、もしかしたら…
もういい!早く出よう!こんなところで、友軍に殺されるなんてまっぴらだ!!」
彼の叫びは、サトミを問い詰めるように、そして自分に言い聞かせるようにも見える。
しかしふと、
「あんな騒音連れて、逃げられるわけが無いだろう!これは仕方が無いんだ!」
サトミが、
何度も何度も同じ事言いやがる。
確かに最初から、こんな、部隊でも下の方の自分たちが
自分たちは政治利用のスケープゴートではないかと。
それでも、言ったじゃないか。こいつらは。
赤ん坊はこの国の未来だと。
あんな
「あんた、ここに来る前言ったじゃねえか、子供は助けたいって。」
そう、確かに言った男が、グッと言葉に詰まる。
「状況が…変わったんだ。腹から出たら、面倒見切れない。」
「は……」
サトミが、
「何でそこで言えねえんだよ、俺たちに
なあ、あんたこの国の国民守る兵隊なんだろ?」
「俺だって、俺だって言いたかねえんだ!そんな、…きれい事!!」
手前にいた一人が、サトミに殴りかかる。
しかし、彼は振り上げた手をそのままガクリと降ろし、よろよろと歩み寄ると、涙を流してサトミの肩に手を置いた。
「わかってくれ……わかってくれよ。
俺達だって、助けたいんだ。でも、この人数じゃ無理なんだよ。
赤ん坊は相変わらず元気に泣いている。
誰もあの子を救えない。
「わかった」
グッと手を
夫人は、ギュッと子供を抱きしめ、目を閉じている。
子供は生まれた瞬間から、その
これから何十年と、普通に生きていくのだと泣いているのに。
「子供はまた生まれると言ったな。
だが、この子はもう生まれない、この子はこの子一人だ。
まだ立つことも出来ない、文句も言えない、ただ泣いている。
泣くことしか出来ない。
だから殺すというなら……
あんたらがそう言うなら、俺が引き受ける。
そのリスク、俺が全部引き受けよう」
「ばっ!」
馬鹿なと言いかけて、男たちは思わず引いた。
まだ、彼自身が子供だと、言われなければ気がつかないほどの、有無を言わせないその……
恐怖さえ感じる……
「お、おい、もっと冷静になれ、もっと…」
サイが、うろたえながら後ろから声をかける。
だが、サトミは
「サイ、あんたはこいつらと一緒に、母ちゃんとそっちの人守ってやってくれ。
俺は逃げないから監視はいらない。
GPSは切れ、誰かコンパスは持っているか?」
一人が手を上げた。
「俺の時計に付いてる、これでいいか。」
ゴツい時計に小ぶりのコンパスが付いている。
「オッケー、地図を思い出せ。いいか、あんたらは北に降りろ。
トラップははったりだ、北北東を目指して進め。
俺は南に降りる。
北に降りたらGPSを切ったまま、本部じゃない、あんたの部隊に、
俺は馬鹿だから衛星電話の仕組みはわからねえが、生存はそこでバレると考えろ。
おばさんたちの存在は、電話で言うな。
それは
あんたらもプロだ、きっとこの母ちゃんたちを無事に救ってくれると、この子というリスクさえ無ければ、あんたらは必ず救えると……
俺は、期待する!」
そして、驚くほど美しい
出来るか?とか、
どうにかしてとか、
出来たらとか、
そんなあやふやなものが無い。
彼は、きっぱりと大人たちに言ったのだ。期待すると。
思わず、男たちが姿勢を正し、敬礼で返す。
サトミが夫人の元に行き、彼女の肩に手を置いた。
夫人が顔を上げ、大きく息をついてうなずく。
他に、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます