本編

Introductionー夕焼け

「あなたはなんのために生まれましたか?」


 チョークと古びた木の床の臭い。海の近くに立地するこの小学校。秋の潮風が教室の児童たちの眠気を誘い、午後の日差しがそれに追い打ちをかけるように差し込む。


 山崎先生は黒板に自分で言った今回の授業のテーマを書いた。


 有野トオルはあくびをしつつ、指定された道徳の教科書のページを開く。


 何のため、か。


 自分は何のために生まれたんだろう。


 そんなこと考えたこともなかった。


 何のために生まれたのか。すぐには思いつかない。しかし、正直今は、生きている意味を感じなかった。たった十二年しか生きていないのに、失ったものが多すぎる。トオルも、ミオも。



 トオルの母親は戦後の流行り病で物心つく前に亡くなり、ミオも小学校低学年の頃に両親と生まれる前の妹を交通事故でなくした。


 そんな二人にとって育ての親、否、育ての姉と呼ぶべき存在だった星海ソラも人類のためにその命を全うした。


 彼女たちは何も悪いことをしていない。自分たちも何も悪いことをしていない。ただ、一生懸命生きていただけだった。


 それなのに奪われていく。


 では、なぜ、何のために生きていくのか。これからどう生きていくのか。

 

 何もわからないまま、ただ、トオルたちはこの世界で暮らしていた。

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