4ー2

「私は食べない」

 京子は睡眠薬を最初に口にしたものだから、嫌がっていた。

 史帆もうなずく。

 「私も食べるのには賛成できない。もしカップ麺が大丈夫だとして、二日分しかないんだよ?今日で一つ食べちゃっていいのかな」

 確かに、卓也もうなずくが、蓮と明は食べる気満々のようだ。

 「明日になればなんとかなる。殺し合い?映画じゃねえんだからそんなこと起きねえよ」

 蓮はけらけらと笑いながらそういうと、沸騰してきた鍋をみて、カップ麺のビニールを破り蓋をあけ、かやくと粉末スープを入れた。

 「粉末スープって後入れじゃね?」

 明が言うと、「あ、そうだった」と二人で笑い合い楽しんでいた。

 他の四人は呆れた顔で二人を見た。この二人は毒の心配など一切していないようだ。

 お湯を入れ終わると、明の分のお湯が足りないことに気付き、ペットボトルから水を追加して再び火にあてた。

 「明ごめんな。足りなかったわ」と言ってカップの蓋を閉じた。

 スマホがないので頃合いを見て蓋を開けた。

 醤油とニンニクのいい匂いが漂ってきて、一同はみなごくりと喉をならした。

 そのころには次のお湯も沸いてきて、明は蓋を開けてかやくを入れ、スタンバイしていた。

 蓮が「いただきます」と言って勢いよく麺をすすった。何も言わずに続いてスープをごくりと一口飲み込む。口に残った麺を咀嚼しながら言った。

 「ああ、うまい!大丈夫だ!お前らも……」

 次の瞬間、蓮は喉に麺でもひっかけたように咳き込んだかと思うと、口から咀嚼物を吐き出した。

 「げええええっ……!」

 苦しそうに喉元を抑え、膝から地面に崩れ落ちすぐに倒れこんだ。横向きになりながら背中を丸め「ごほっごほっ」と咳をして再び盛大に嘔吐した。

 「きゃああ!」

 京子の叫び声が鳴り響く。

 お湯を入れかけていた明はカップ麺を投げ捨てた。

 史帆は蓮のもがき苦しむ姿をただ呆然と見ていた。

 「く、苦しい……。助け、て……」

 誰も何することも出来ず、見つめていた。

 蓮はやがて動かなくなった。

 「蓮?」卓也は状況がまだ飲み込めていないようにして蓮に近寄る。

 「うわ!死んでる……」

 卓也が見た蓮は、白目をむいており、開いた口と鼻からは吐瀉物が垂れ流れていた。

 「いやああああ!」

 由紀が頭を両手で抱えて叫び座り込んだ。

 明は捨てたカップ麺を観察した。

 「原因は多分カップ麺だよな。もしくは水か……」

 明はあたりを見渡し、山小屋を見ながら言った。

 「ゲームが始まった……」

 一同に脅えが走った。

 「とりあえず、中に戻ろう」

 卓也はどこか冷静だった。

 山小屋の中に戻り、五人はソファに腰かけた。

 「おや、一人いませんね。さっきの悲鳴からすると一人脱落したようですね」

 アインスは楽しそうに言った。 

 「殺し合うんじゃなかったのかよ!」

 明はカメラに向かって叫んだ。

 「これは開幕宣言です。あなたたちはどうせ殺し合わない。しかし、一人が死ねばその気になると思いましてね」

 「いかれてる」

 由紀は絶望した顔で呟いた。

 京子は立ち上がりリュックを担いだ。

 「浜に行く。ここいたら殺される」

 「いや、待った」

 卓也は京子を見た。

 「あいつが……アインスがこの島のどこかにいるかもしれない。逃げたら殺されるかも」

 京子はいらいらした口調で言った。

 「ここにいてもいずれ殺しに来るかもしれないじゃない!それとも、あいつの言うに通り殺し合うとでも言いたいの?」

 由紀も同調して言った。

 「そうだよ。アインスは一人。私たちは五人。みんなで逃げればもし襲ってきても勝てる」

 卓也は悔しそうに唇を噛んだ。

 「わかった。でも今日じゃない。明日、明るくなってからだ。この暗闇の中襲われたら五人でもやられる可能が高いし、昼に寝ている間に罠を仕掛けてあるかもしれない」

 出来るだけ小さい声で話した。

 京子は今にも逃げ出したい気持ちを抑えて、ソファに掛けなおした。

 史帆はちらっとカメラの方を見た。

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