3
建物の外観は少し古く感じたが、山小屋の中は意外と綺麗だった。
やはり誰かの持ち物で、定期的に掃除をしに来ているんだと史帆は確信した。
玄関の靴脱ぎ場の目の前は廊下で二階に続くふきぬけの階段があり、階段の前を左に折れるとリビングがあり、その奥にはダイニングキッチンになっている。
六人は興奮気味に各々部屋を見て回って、リビングに集合し報告し合った。
最初に話し出したのは京子だった。
「二階には部屋が五つあって、一番奥から順に五、四、三って番号が書いてあった」
「トイレやバスルームもちゃんとあったよ。掃除されているのかめっちゃ綺麗だった」
と卓也と蓮が続けた。
「あの……」
史帆は決まづそうに手を上げて、一枚の紙を見せた。その紙には、
『お前たちを許さない』
五人の顔が真剣になる。そして裏返すと、
『六人で殺し合え。残った一人を勝者として島から解放する』
と書かれていた。
「なにこれ、うけるんだけど」
と由紀が笑いながら言った。
蓮が「捨てとけ、前に来た人たちが何かのゲームに使ったんだろ」と言って史帆から紙を取り上げ、くしゃくしゃにしてキッチンにあるごみ箱に入れた。
「何もなかったし、海に行って遊ぶか」
明はそう言ったが、五人はここまで来るのに体力を使い切ってしまい。休憩をしたいと思っていた。
「少し休んで行こうよ。喉乾いた」
六人とも、飲み物を持ってきていなかった。
「俺この島に自販機くらいあると思っていたから飲み物持ってきてねえよ」
卓也がリビングにあるソファに勢いよく座り、そう嘆いた。
すると、キッチンにいた蓮が何かを見つけた。
「おい、水あるぞ。あとカップ麺も」
そこには、段ボールが二つあり、一つは水、もう一つはカップ麺だった。
「助かったー。蓮、持ってきて」
由紀の言葉に蓮は段ボールを開け、六本取り出して抱えて持ってきた。
「でも、なんか怖くない?」
史帆だった。
「だって、さっきの紙。あれが私たちに向けて書かれていたんなら、それに毒が入っているかもしれないし」
京子はペットボトルぐるりと回して見て、「大丈夫だよ」と言いキャップをひねった。
ぱきっと音がすると、京子はにやりと笑った。
「ほら、新品」
それに安心したにか、史帆以外の五人もキャップをひねり、ごくごくと飲み始めた。
「くああ!おいしい!」
卓也はそう言って破顔した。
史帆は唾をごくりと飲んだ。みんなも飲んだし、大丈夫だろうと思いキャップをひねった。最後まで警戒していた私に注目が集まる。
目を閉じて、一口飲んだ。「水だ」そう言って二口目を飲んだ。その史帆を見て、
「な、大丈夫だったろ」
と明が笑いながら言って、自分の水をもう一度飲み始めた。
六人なら余裕で座れるほどの大きなソファに他の五人も腰かけて、しばらく他愛もない話をしていると急に眠気がしてきた。
「疲れてるからかな、眠くなってきた」
京子はそう言ったが、そう感じているのは五人も同じだった。
やがて京子は寝落ちしてしまい、続くようにして他の五人も眠ってしまった。
しばらくして、先に目が覚めたのは由紀だった。
部屋が暗いことに気付き、窓の方を見ると外も日が落ちてしまっていた。
時間を確かめようとスマホを探したがどこにもない。
隣で寝ていた京子を起こした。
「京子、起きて。もう夜だよ」
揺さぶられ、京子はやっと起きた。
京子もまた、部屋や外が暗いことに気付きスマホを探したがどこにもない。
「なんで?私テーブルに置いてのに」
史帆や男子三人も起きて、同じリアクション、同じ行動をしたが結果は同じ。
スマホがない。
全員が凍り付いた。そしてすぐに蓮が口を開いた。
「とりあえず、電気を付けよう」
蓮は立ち上がり、手探りで壁を触り始めた。
ぱち、っと音がしてすぐにリビングの電気がついた。
六人は改めてスマホを探したが、やはりどこにもなかった。
「うそ。どうして……」
由紀は困惑な表情を浮かべていた。
「睡眠薬だ」
そう明が言った。五人も間違いないと思ったのか何も言わず明の方を見た。
「誰かが睡眠薬を水に入れておいて、俺たちが眠っている隙ににスマホを奪ったんだ」
「そうとしか考えられないな」と蓮が続けた。
史帆は今更ながら、水を飲んでしまったことを後悔した。そして、
「でも、誰が何のために?」
史帆の問いかけに誰も何も答えられなかった。
しばらくして「京子が大丈夫だって言うから」と卓也が呟いた。
「は?じゃあ、あんたは睡眠薬の味とかわかるわけ?」
と反抗的に言い返した。
それをなだめるような口調で言った。
「おいおい、落ち着けって。それより今夜どうする?」
「どうするって?」
由紀が疑問そうに聞き返した。
「いや、一泊するかどうかでしょ」
蓮は当然のようにして言った。
「こんなところ、泊まれるわけないでしょ。浜に行ったら送ってくれたお兄さんいるかもしれないじゃん」
由紀は怒ったように言った。
それに対して蓮は立ち上がり、
「じゃあこの真っ暗な中、来た道を戻れるのかよ」
と、外を指さしながら強い口調で言った。
由紀が黙り込み、蓮は再びソファに座った。
「一泊するしかないって。怖いなら寝なきゃいい。みんなで起きていよう」
由紀が目を吊り上げて蓮に向かっていった。
「もしかして、明にラインを送ったのってあんたじゃない?」
蓮が反論した。
「なわけねえだろ。もしそうだとして、何のためにここに呼び出すんだよ。しかも睡眠薬まで用意して」
卓也も、蓮に加勢して言った。
「そうだよ。蓮がそんなことするはずない。どっちにしろ浜にあの人がいなかったら一泊しないといけないんだ。二時間かけて降りて、また二時間かけて上るのしんどいだろ。明日になるのを待とう」
京子が、はあ、と大きなため息をついた。
「由紀、諦めよう。明日になれば帰れるって。今日はここに泊まろう」
明と史帆もうなずく。そして由紀も観念したようにうなずき、前のめりになっていた体を背もたれに倒した。
「で?」
由紀は答えを求めるように言うと、「で、って?」と蓮が聞き返した。
「で、京吾の名前を使った人にこ呼びだされてここまで来たけど、結局何がしたいわけ?」
そのこたえは誰も知るはずがなかった。沈黙が続き、しばらくしてた卓也が口を開いた。
「もしかして、あの紙に書いてあったのは俺たちに向けたものだったりして。ほら、人数もちょうど六人だし」
皆の顔が曇る。
はっとしたように明が京子に聞いた。
「二階に部屋が五つあるっていってたよな?中は見たのか?」
京子は、あっと言って「見ていない」と答えた。
「部屋を見てみよう。女子はここに残ってろ」
その言葉に男子三人が立ち上がり、廊下に出て二階へと向かった。
残された史帆、京子、由紀はしばらく何も話さなかった。
沈黙を破るように由紀が言った。
「三対三か……」
京子が怪訝そうな顔をした。
「え?」
「もし、本当に殺し合いになったら男と女の数は同じだなって話」
「急にどうしたの?」
京子は目を丸くしていた。
「でも、生き残れるのは一人ってかいてあったよ」
その史帆の言葉に由紀も京子も押し黙った。
そうしているうちに男子が戻って来た。腕には掛け布団をいくつか抱えていた。
「何もおかしなところはなかったよ。掛け布団があったから人数分取って来た」
明は安堵の表情を浮かべて持っている布団を見せてきた。
史帆は、由紀の言葉が頭から離れずドキドキしていた。
――本当に殺し合いになったら。
もしそうなれば、私は真っ先にやられるだろう。私以外の五人は仲がいいが、私は誰とも親しくない。一人目は確実に私だ。
史帆はそんなことを考えていた。
あんなことを言った由紀は、特段疑っている様子もなく卓也から掛け布団を貰っていた。
戻ってきた男子がソファに座った。
「やっぱりいたずらだったか」
明はがっかりしたようだった。
次の瞬間、ぷつん、と何かの電源が入ったかのような音が頭上から聞こえた。
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