Death Island

汐川ヒロマサ

0 1

「た、助けて……」

 その声、願いが届くことはなかった。

 次の瞬間、ずぶっと鈍い音がして血の海が出来た。

 叫び声は上がらず、声にならない「はあ、はあ、はあ……」という苦しげな息が漏れた。

 とどめを刺すように横へ振り払われた瞬間、赤いしぶきが眼前をあかく染め上げた。

すぐにかくっと首が折れた。目は開いたまま。

 「今からそっちへ行くからね」

 扉が開き、黒い影が入って来た。

 「おめでとう。君の勝ち」

 似ているようでどこか懐かしい声が、私の頭蓋に響き渡り意識を失った。


木曜日の練習終わり。明のスマホに、来るはずのない相手からのラインが届いた。

 『明日、コカ島のペンションに灘蓮、小泉卓也、浜辺涼子、佐藤史帆、仲間由紀を連れて来て。理由は行けばわかる』

 送り主は、『高山京吾』からだった。

 彼は二カ月前に明が通う高校の屋上から飛び降りた自殺をした、クラスメイト。

 明は鳥肌が立った。

 ラインに書かれてあった名前は、皆クラスメイト。

 灘蓮。クラスでははもちろん、学校「1」のイケメンで女子からは学年問わず人気者。

 小泉卓也。明るい性格でとてもフレンドリーなため友達が多いクラス「1」の人気者。

 浜辺京子。京子もクラスではもちろん、学年「1」の美女。発言力があり、彼女には逆らえない雰囲気がある。

 佐藤史帆。とても真面目で学年「1」の秀才。誰かと関わるのが好きではなく、友達と呼べる存在がほとんどいない。

 仲間由紀。学級委員長でクラスのまとめ役。なんでも無難にこなしてみせる。卓也が男子で一番なら、彼女は女子「1」の人気者。

 そして田中明。彼は野球部のエースで来月に迫った夏の全国高校野球選手権大会予選に背番号「1」を付けて出場する。

 彼らは皆、三年三組のクラスメイトだ。

 翌日、五人を屋上に集めメールの内容を伝えた。

 メールを見た瞬間。彼らもまた、血の気が引いたような青白い顔になった。

 しばらく沈黙が続き、初めに口を開いたのは卓也だった。

 「変な冗談はよせよ。どうせお前のいたずらだろ?」

 「そうだよ。だって京吾は先月……」

 京子は腕を組みながら言った。

 京吾が飛び降りた場所だ。

 高山京吾。野球部のエースだったが、試合前にドーピングの薬を飲んでいる動画をグループラインに送らた。それはフェイク動画だと、京吾が飛び降りた後に分かったが、フェイク動画を信じたクラスメイトに彼は避けられるようになり、いじめられ、自殺した。

 「もしかしたら、京吾の霊が復讐を……?」

 明がそう言うと、

 由紀はけらけらと笑い出した。

 「なにそれ。うける」

 「え、明それ本気で言ってるの?てか、京吾が自殺したの私たちのせいじゃないし」

 京子も由紀に続いて笑いだした。

 積極的にイジメをしていたのは史帆を除くここの五人だったため、先生にいじめの主犯格を聞かれた時、他のクラスメイトは何も言えず、犯人は見つからずに事なきを得た。

 蓮も卓也も笑っていた。しかし史帆だけはまったく笑っていなかった。

 史帆は京吾のことが好きだった。このことはクラスで噂になり、他に五人も知っていた。

 京子が続けた。

 「行ってみようよ。面白そう」

 「いやー俺は部活あるし」

 明は苦笑いを浮かべた。

 「えーいいじゃん。一日くらい休んでも」 

 京子は口をとがらせた。

 「そうだよ明、行こうよ。エースは一日休んだくらいじゃ肩、なまらないだろ」

 卓也にエースと言われ気分が良くなった明は、

 「まあ、そうだけど」

 蓮が手をパチンと叩いて、五人の顔を見渡しながら言った。

 「よし。じゃあ決まりだな。明日の朝、港に集合。船はそこに行けば誰かしらいるだろう。」

 由紀もうなずいた。が、史帆は「行かない」と言い放ち、少しの間、場が静まった。

 京子はがっかりしたように息を吐いた。

 「ホント、史帆ってノリ悪いよね」

 まあまあ、と卓也がなだめる。

 「史帆が京吾のこと好きだったのは知ってるから、辛いのはわかるけど、行ったら京吾の何かがわかるかもしれないじゃん」

 「あんたたちのせいでしょ!」

 史帆は今まで出したことのない声量で叫んだ。

 「あんたたちがイジメたんでしょ。それが辛くて自殺したんじゃないの」

 由紀が右頬を釣り上げ、「は?」と言って続けた。

 「証拠は?私たちがイジメたって証拠。証拠としてあるのは京吾がドーピングしていたっていう動画だけでしょ」

 史帆は何も言い返せなかった。

 蓮は史帆の方を向いて改めて言った。

 「なあ、行くだろ?行って何もなかったらすぐ帰るからさ。少しだけ付き合ってくれよ」

 史帆は考え込んでいたが、やがて折れるように「わかった」と渋々うなずいた、

 

 翌日の朝六時、やや黄みがかったピンク色に東の空が染まってきた頃、六人は集合した。

 朝の海風は六月なのに少し肌寒かった。

 「あ、向こうにいるの漁師さんじゃね?」

 赤色のポロシャツに短パン、ゴム製の草履を履いた卓也が指さす方を見ると、男性が船で何かをしているのが見えた。

近づいてみると、帽子にレンズの濃いサングラスをかけ、漁業用の黒色の作業着に中には赤色のインナーを着ていて、黒色の長靴を履いた、卓也たちと同い年くらいに見える若い男性がいた。

 蓮が声をかける。

蓮は一回り大きい黄色のシャツを着て、少し大きめのスラックスを履いていた。 

「あのー、僕たちコカ島に行きたいんですけど連れて行ってもらったりって出来ます?」

 男性は顔を上げ、「乗れ」とだけ言って運転席へと向かった。

 一同は堤防から船に乗り込んみ、コカ島へと出発した。

 「それよりさ、ほんとのこと言おうぜ」

 卓也だった。

 「ほんとのことってどういうこと?」

 大きめの白色のシャツに、デニムジーパンを着た京子が怪訝な表情で尋ねると、卓也は笑いながら言った。

 「いやだってさ、死んだ人からラインがくるっておかしくね?絶対明のいたずらだろ」

 五人は明の方を見た。

 「いやいや、何のために。ほんとだって。信じてくれよ」

 明は困ったように笑って答えた。

 ていうかさ、と蓮が少し強めに言って、今度は蓮に視線が行った。

 「ていうか、コカ島にペンションなんかあるの?」

 全員の動きが止まった。

 「確かに。聞いたことないな」

 卓也が真顔でそう言うのを見て、黒のノースリーブにハイウェストのジーンズを着た由紀が笑い出した。

 「びびってるの?別に無ければ海で遊んで帰ろうよ。昨日調べたけどペンションっていうか、山小屋はあるみたいだよ。砂浜も綺麗だったし」

 由紀の言葉にほっとしたのか、六人の顔が少しずつ笑顔になった。

 「そうだよ。みんな着替え持ってきただろ?」

 明の言葉に「もちろん」と各々持参してきたバックを前に出し、何かでパンパンに詰まったカバンを見せた。

 しかし、史帆は何もなければすぐ帰るという約束で着いてきたので着替えは持ってきていなかった。

 「すぐ帰るって言ったじゃん」

 蓮は、まあまあと史帆の肩に手を置き、

 「せっかく行くんだし、少しくらい遊んで帰ろうよ」

 となでめた。史帆は何も言わなかったが、納得はしていなかった。


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