取り返しのつかない過ち
ディートリヒ殿下に横抱きにされたまま生徒会室に運ばれてしまった私は、用意してもらった替えの制服に着替えさせてもらった後、見るからに高級そうなソファに腰かけたことで漸く人心地につくことが出来ました。
「ディートリヒ殿下、わざわざ替えの制服まで用意して頂いてありがとうございました」
「なに、生徒会には専属の使用人がいるからな。替えの制服を用意するくらい訳ないさ」
その言葉が示すように、メイド服を着た使用人の女性が温かい紅茶を用意してくれています。
「それにしても、ディートリヒ殿下は生徒会に所属してらっしゃったのですね」
「ここ『イルティア騎士貴族学園』は貴族の為の学園だからな。生徒の代表となる生徒会役員は自ずと高位貴族ばかりになってしまうんだ」
「もちろん、レオンハルトやマリアンネ嬢も生徒会の一員ってわけだ」
そう言うと、ディートリヒ殿下は応接机に置かれた紅茶に口を付けてから、私にずいっと顔を寄せました。
「っ!?」
「・・・それで、リリアーナ嬢なんだろ?アリアの大切なバレッタを用水路に投げ捨てたのは」
「・・・し、しらないです」
私は思わず顔を背けようとしました。
ぐいっ!
「っ!?」
しかし、ディートリヒ殿下に顎を摘ままれ、強制的に顔を正面に向けさせられました。
「アリアは嘘が下手だね?どうして自分を陥れた令嬢をわざわざ庇うんだい?」
「っ!それは!!」
「けど残念、実はもう
「っ!?」
ディートリヒ殿下は不敵に笑うと、生徒会室の入口に目を向けました。
「入ってきてくれるか」
ギィィ・・。
ディートリヒ殿下が言うと、重厚な扉がゆっくり開いて一人の令嬢が入室してきました。
「っ!!レオノラ様!!」
レオノラ様はおずおずといった様子で私たちの座る応接椅子に歩み寄ると、胸の前に手を組みながら跪きました。
「申し訳ございません!!アリア様!!」
「わたし、こんな事になるとは思っていなかったんです!!」
レオノラ様は目に涙を溜めながら必死に訴えてきました。
「実は、わたしの実家である『ドレイク男爵家』は近年事業の失敗で大きな負債を抱えていたのです」
「その負債はリリアーナ様の派閥に属する伯爵家からお借りしたもので、それをリリアーナ様に知られてしまって以来、今回の様にわたしに理不尽な命令を押し付けてくるのです!!」
「もしリリアーナ様の命令に背けば、リリアーナ様は貸主の伯爵家に圧力をかけて実家への返済を迫ると脅してくるので・・」
「ただ・・!リリアーナ様には『アリア様と個人的にお話しをしたい、けど何時もレオンハルト殿下やエカテリーナ様がそばにいるから、サロンに誘うフリをしてアリア様を一人にしてほしい』と頼まれただけだったんです!!」
「だから、本当にこんな事になるなんて思ってもいなかったのです!!」
「アリア様を騙した事は決して許されることではありません!ですが、家の為に仕方がなかったのです!!本当に申し訳ございません!!」
レオノラ様は地面に頭をこすり付ける勢いで頭を下げました。
「・・アリアを心配したレオノラ嬢はあの後用水路に戻った時、俺に抱えられたアリアの姿を目撃したそうだ」
「それで罪悪感に苛まれて、君が着替えている間に私へ事の顛末を説明してくれたんだ」
「そうだったのですね・・」
「でも、レオノラ様・・そんなことを言ってしまっていいのですか?レオノラ様が真相を語ったとリリアーナ様が知れば、実家に迷惑がかかるのではないのですか?」
「それはっ・・!確かにそうかもしれません!けど!実家の借金のせいでこれ以上、リリアーナ様の奴隷になるのは限界なのです!!」
「たとえそれで実家が破産して貴族位が取り上げられても・・・きっとお父様はわかってくださいます!」
「レオノラ様・・・」
「・・・まあ、その心配はないだろうね。おそらく、この後事態は
ディートリヒ殿下はそう言いながら不敵な笑みを浮かべました。
「それはどういうことなのですか??」
「アリアのバレッタが水路に投げ捨てられたことは恐らく既にレオンハルトに伝わっている事だろう」
ディートリヒ殿下の言葉に私はこてりと首を傾げました。
「え?何故なんですか?レオン様とマリア様は公務で動けないはずですが・・」
「それはもちろん君に付いているごえ・・と、それは勝手に言えないか」
「??」
「まあ、とにかくレオンハルトの耳に入っているわけだ」
「で、レオンハルトは『神聖イルティア自治国』の王太子、つまり敬虔な『女神教』信者な訳だ」
「そんな彼がアリアの身に着けている『
「っ!!」
「当然、立場上『
「そんな!!」
私は思わず立ち上がりました。
私の身に着けているバレッタは世界に僅かしか存在しない『
しかも『邪神デスティウルス』を滅ぼして世界を救った『メルティーナ』が格納されています。
そんな『
「わ、私は気にしていませんから!!!そんな大事になったら困ります!!どうにかここだけの話で抑えられませんか!!?」
私は慌ててディートリヒ殿下に詰め寄りました。
「・・おそらくもう間に合わないだろう、それに・・・
「リリアーナ嬢は、この世で
ディートリヒ殿下の言葉に背筋がぞくりとしました。
ザッザッザッ!
その時、突然部屋の外が騒がしくなり始めました。
バン!!
そして、扉が勢いよく開け放たれると、数人の武装した騎士を連れたレオン様とマリア様が入ってきました。
「アリア!!」
「お義姉様!!」
レオン様とマリア様は私に駆け寄ると、体を強く抱きしめてきました。
「冷たい水の中にずっといたんだって!!大丈夫だったのか!!」
「お義姉さま!!風邪を召されていませんか!?わたくし心配で仕方なかったのですよ!!」
「ご、ご心配頂いてありがとうございます。ですが、ディートリヒ殿下に良くして頂いてこの通り心配ありません」
「・・よかった」
「・・今回ばかりは礼を言おう、ディートリヒ」
「ふん・・素直に礼を言えばいいものを」
「それにしても、お二人とも公務ではなかったのですか?それにあちらの物々しい方たちは一体・・?」
私が首を傾げていると、騎士の中でも隊長らしき人物が前に出てきました。
「アリア・フォン・レゾニア公爵閣下!某は『聖騎士団』ラビッシュ方面軍司令のバドラックと申します」
「『聖騎士団』!?」
私はその言葉に驚愕しました。
『聖騎士団』とは『女神教会』直属の治安組織です。
『聖騎士団』は『女神教会』の要人を護衛することが主な任務ですが、『女神教会』や『女神様』に連なる存在に仇為す者を
そんな重要な任務に就く方が来られたということは・・。
「説明している時間はございません。現在、別働隊がリリアーナ嬢を拘束しています」
「つきましては、貴女様には参考人として同行願い申し上げます」
「今回は
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・!!!!
その直後、学舎を揺らすほどの激しい轟音が生徒会室に響き渡ってきました。
「ああ!!お越しになられてしまわれたっ!!」
その音を聞いたバドラックさんや『聖騎士団』の騎士達が一斉に狼狽え始めました。
そして、窓の明かりが突然なくなり、まるで一帯が夜になったように暗くなり始めました。
私は、その光景を一度『ヨークスカ』で見ていました。
「・・まさか!?」
嫌な予感がした私は思わず窓の側まで駆け寄りました。
バン!!
「っ!?」
そして、開け放った窓から空を見上げて瞠目しました。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・。
何故なら、見上げた空は私が予想した通り、巨大な『
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