専用機と人工女神(アーク・イルティア)

「すごいです・・これほど大規模な『収納魔導』の術式が、お義姉様のバレッタに刻まれているなんてっ!」


 そして、駐機場の床面に展開した魔導式から跪いた状態の『メルティーナ』が徐々に姿を現していきます。


 シュウゥゥゥゥン・・・!


 程なくして『メルティーナ』が完全に顕現マテリアライズすると、遠くからその様子を眺めていた生徒達が騒ぎ出しました。


「なんて美しい機体だ!!」


「これが、あの『邪神デスティウルス』を滅ぼした、伝説の人工女神アーク・イルティア・・!!」


「レオンハルト殿下の『プラタナ』もそうですけど、千年前に生み出されたものとは思えませんわ!」


 思い思いに騒ぎ出す生徒達を尻目に『メルティーナ』へ乗り込もうとした時、瞳を潤ませたエカテリーナが駆け寄ってきました。


「ああ・・・これが『メルティーナ』・・素晴らしいですわ!まさか、生きている間にお目にかかれるなんて思いもしませんでしたわ!!」


「エカテリーナは本当に魔導機甲マギ・マキナが好きなんですね」


「わたくしの『ランガース家』は世界有数の魔導機甲マギ・マキナ開発に携わる家系ですのよ!当然の事ですわ!」


「ああ、『メルティーナ』と実機講習が受けれるなんて夢のようです・・っ!こうしてはいられませんわ!私の魔導機甲マギ・マキナも急いで準備しますから!!」


『メルティーナ』を見て興奮していたエカテリーナは、ツカツカと早歩きで自分の専用機に向けて歩いていきました。


 それを見送った私は、気を取り直して『メルティーナ』へ乗り込みました。


『『メルティーナ』、始動します!!』


 シュイイイイン・・・!


 ギウゥゥゥゥン・・・、ズシーン・・ズシーン。


 そして、コクピットに乗り込んで『メルティーナ』のマナ出力調整スロットルを開きながらゆっくりと機体を起こした私は、そのまま駐機場に併設された演習場へと進みました。

 

 キィィィィィィ・・・!


 ズゴオォォォォォ・・・!


 周りを高い塀で囲まれた開けた敷地になっている演習場に出ると、そこには既に数十機にもなる『ラピス・シックス』が発導機をけたたましく唸らせながら並んでいました。


『ラピス・シックス』は千年前に初めて量産に成功した『ラピス』シリーズの第六世代機で、各国の軍や騎士団に戦闘用量産型魔導機甲マギ・マキナとして採用されている標準機です。


 時代の流れでその基本性能は大きく変わりましたが、機体名称通りに全体が瑠璃色に塗装されているところと全体的に角ばった造形になっているのは、第一世代機から変わっていません。


『ラピス・シックス』は主に騎士団へ配備されることから機体背部には大きなランスが装備されています。


 そして、股関節部分や肩部分を覆う装甲板も相まって、外観はまるで鎧を装着した騎士のようです。


 私は魔導機甲マギ・マキナが揃う壮観な光景にしばらく圧倒されていました。


 すると、立ち並んでいる魔導機甲マギ・マキナの中で、標準機と全く異なる形をした三機の機体を見つけました。



『・・?あの三機が、専用機なのでしょうか?』


 ウィィィィン・・ズシーン・・ズシーン・・。


 私が不思議そうに見つめていると、その三機の機体がこちらの方へと近づいてきました。


『驚きました?これが私の専用機、ランガースインダストリーの高機動近接戦闘用魔導機甲マギ・マキナ『フローレンス』ですわ!』


『メルティーナ』の前までやってきた三機のうち、深紅に塗装された細身の機体からエカテリーナの声が聞こえてきました。


 エカテリーナの乗る『フローレンス』という名前の機体は近接戦闘時に使う兵装として、持ち手とブレードが一体化した形状になっていて機体と同色に塗装された小剣二本が一対となって腰部マウントに装着されています。


 機体は全体的に細身の外観で、脚部の可動域を優先しているのか、人間でいう股関節部分には装甲板がなく可動機構がそのまま露出しています。


 すらりと伸びる脚部の先にある踵にはローラーが折り畳み格納されていて、おそらく地上で高機動戦闘をする時に使われるものだと思われます。


『すごいです!個人で専用の魔導機甲マギ・マキナを保有しているなんて!』


 当たり前ですが魔導機甲マギ・マキナは個人のお金で買えるような代物ではありません。


 それこそ、貴族御用達の『魔導車』を買うのとはわけが違います。


 なので、高位貴族ですら専用機を保有するのは難しいと言われているのです。


『私はランガース侯爵令嬢でしてよ?このくらい当然ですわ!オーホッホッホッ!』


 魔導機甲マギ・マキナに乗っているので表情は読み取れませんが、マニピュレーターを顎部に当てているポーズと拡声魔導の声色から、エカテリーナが得意げになっているのがよく分かります。


『わ、私だって専用機を持っているんですから!!』


 すると、隣の深緑色に塗装された機体からユイちゃんの声が聞こえてきました。


 そして、ユイちゃんの乗る機体は通常の魔導機甲マギ・マキナとは全く異なった外観をしていました。


 その、一番特徴的な部分は機体の脚部です。


 通常の魔導機甲マギ・マキナは二足歩行を行うのですが、ユイちゃんの機体には六本の巨大な脚部が備わっていて、その姿はまるで蜘蛛のようです。


 そして、重厚な胴体部から伸びる腕は巨大なライフルと手が一体化したような構造になっています。


 更に、機体背面からは二本の補助腕が伸びていて、肩越しに巨大な二門の砲を携えています。


『これが私の専用機、シノサキ重工製多脚重装魔導機甲マギ・マキナ『アラクネ』だよ!!』


 ・・なんというか、小動物な見た目をしたユイちゃんが搭乗しているとは思えないほどゴリゴリの火力主義な魔導機甲マギ・マキナです。


 スゴオォォォ!!


 そして、ユイちゃんの乗る『アラクネ』から発せられる発導機の駆動音は他の機体と比べ物にならないくらい大きいです。


『ユイの機体は相変わらずね』


『ふふふ!魔導機甲マギ・マキナに求められるのは、ずばり!『出力』と『火力』ですから!』


『なんで貴女は魔導機甲マギ・マキナに乗るといきなり脳筋思考になるのよ・・』


『フローレンス』が頭部にマニピュレーターをやって呆れる姿はとてもシュールです。


『お義姉様!お二人のだけではなく、わたくしの専用機も見てください!!』


 そして、最後の一機となる水色に塗装された機体には、どうやらマリア様が搭乗しているようです。


 マリア様の機体は平たくて後方まで大きく伸びた形状をした頭部が特徴的です。


 そして、両肩部装甲背面には『神聖イルティア自治国』王家の紋章が刺繍された大きなマントが装着されています。


 腰部は膝関節下まで伸びる大きなスカート状の装甲板で覆われていて、腰部マウントには魔杖のようなものが装着されています。


 その姿は、人間で言うとまるで『魔導士』のようです。


『この機体は後方支援型魔導機甲マギ・マキナの『ウルディナ』と言います!流石にお義姉様の『メルティーナ』には劣りますが、わたくしの自慢の機体ですの!』


 そう言いながら、『ウルディナ』は優雅なカーテシーを披露しました。


 ズシーン・・ズシーン。


『どうやら、みんな揃ったみたいだな』


 そこへ、アーヴィンさんが乗る『ラピス・シックス』を引き連れた、レオンハルト様の人工女神アーク・イルティア『プラタナ』がやってきました。


 改めて『プラタナ』を見ると、やはり人工女神アーク・イルティア魔導機甲マギ・マキナと一線を画した機体であることがよくわかります。


 まず、機体全てが神白銀プラティウムでできていて、装甲板を伝達するマナによって淡く光り輝いているのが特徴的です。


 装甲を伝達するマナの光を纏う白銀の機体は、それだけでも神秘的に見えます。


 機体の造形は私の『メルティーナ』が丸みを帯びた全身鎧を装着した騎士のようなデザインなのに対して、全体的に直線的です。


 その胸部の中心には『女神様』が錬金した神白銀プラティウムによって生み出された半永久機関となる『クラリス式発導機』のコアが露出していて、その左右には横長の長方形をした排熱ダクトのようなものがあります。


 そのコアは膨大なマナを出力して輝いていますが、駆動音は魔導機甲マギ・マキナの発する音と比べてもかなり静かです。


 人間で言うウエストの部分は細くくびれていて、可動部がむき出しとなった股関節から両脚が接続されている構造は『フローレンス』とよく似ています。


 対して、肩部にはしっかりとした肩部装甲が備わっていて、後頭部からはツインテールを模したような、機体下部まで達する大型のスタビライザーが伸びています。


 更に、機体背面左側には持ち手を下にしたまま縦向きに収まった大剣と、ボディの半分ほどにもなる大型でブレードのような形をした六枚の可動する翼が折り畳まれています。


 それは、『飛行魔導神殿』の推進装置として備わる『フライ・マキ・ウィングユニット』と同じものだと思われます。


 そして、私が『プラタナ』に見惚れていると、レオンハルト様が話しかけてきました。


『今日はアリアにとっては初めての実機講習だな』


『そして、人工女神アーク・イルティアが・・君の『メルティーナ』がどの程度の力を持つのか知るいい機会にもなる』


『初めてだから勝手がわからないかもしれないが、講習の内容はみんなの様子を真似したらいいから、緊張しないでがんばってくれ』


『はい、わかりました!私、やってみます!』


 私の返事を聞いた『プラタナ』が満足げに頷きました。


『では、全機只今より講習をはじめます!各機、グループに分かれて教官機の指示に従って所定の位置についてください!』


『『『了解!』』』


 そして、私が戦闘以外で『メルティーナ』を動かす、初の実機講習が始まりました。






~設定資料~


魔導機甲『ラピス・シックス』


人類初の量産型魔導機甲として開発された『ラピス』シリーズの第六世代機。


『神聖リーフィア神帝国』に属する自治国各国の軍や騎士団用の標準機として採用されている。


小型高出力化された『六型クラマ式発導機』が採用されていて、各部魔導術式の簡略化によってマナ消費量が抑えられて、マナ劣化に対する長寿命化を実現している。


メンテナンス性と生産性向上の為、本機はレゾニア重工、ランガースインダストリー、シノサキ重工の三社でOEM生産されている。




〜スペック〜


魔導機甲『ラピス・シックス』


全高18.4メートル


乾燥重量 55.8トン システム重量 64.2トン


動力 単発式六型クラマ式発導機(ヒヒイロカネ・マギフォーミュラ・マナ・ジェネレーター)


動力伝達系 流体ミスリル


装甲 ミスリル・アダマンタイト鋼


定格出力 4540サイクラ 最大 4850サイクラ


最高飛行速度 時速1000km/h


想定耐用時間28,000時間(定格出力稼働による)


搭載魔導

飛翔魔導 上級防御魔導 


武装

近接衝槍

中距離戦闘用90mmマギ・ライフル


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