五年前の悪夢2
・・・・・・・・・・・。
「えへへ・・お肉屋さんのおじさんに良い部位のオーク肉をおまけしてもらっちゃった!沢山買えたし、おばあちゃんも喜んでくれるかな?」
私は今日の戦利品を荷台に載せると、帰路につくために運転席へ腰掛けます。
「よし、帰りも安全うん・・・」
そして、うきうきしながら魔導三輪を走らせようとした、その時・・・。
ドオォォォォン!!
突然、遠くから凄まじい爆発音が聞こえてきました。
「なんだ!?」
「一体何の音だ!?」
突然の出来事に、辺りも騒然となります。
ゴゴゴゴ・・・・。
そして、その直後・・建物の向こうから信じられないものが姿を覗かせました。
「あれはっ!?
狼狽える男性が指差す先には、確かに瓦葺きの建物よりも遥かに巨大な
私の住む『アーティナイ列島』全域に生息していて、大陸で言う『ゴーレム』と同じく、討伐には複数の上級冒険者が必要となる非常に脅威的な魔獣です。
それが、複数体も同時に町へ現れたのです。
バアァァァン!!
この町の民家の殆どは『カームクラン様式』という木造瓦葺きの建物であり、十メートルにもなる
「きゃああああ!」
「ぐべっ!」
そして、逃げ惑う人々を嘲笑うかのように
「あ・・あ・・あ・・」
あまりの出来事に、私は声を発することができません。
今まで複数の
到底、この町の冒険者達では太刀打ちできません。
そして、隣町である『ヨークスカ』の駐在軍や首都『カームクラン』の連邦軍が到着する前に『ライズ』の町が壊滅してしまうことは火を見るよりも明らかでした。
「おいっ!?工場地区が燃えているぞ!?」
「!?」
私は近くのおじさんが叫ぶ声を聞いて、工場地区へと目を向けます。
私とおばあちゃんは裕福ではないので、賃料が安い工場地区内の住居を借りて住んでいます。
そして、その工場地区が燃えている・・。
私は一気に体温が下がった錯覚を感じました。
「おばあちゃん!!」
話を聞いた私は、焦りながら魔導三輪を走らせようとします。
「きゃあああ!!?」
「うわあぁぁぁ」
しかし、街道は逃げ惑う人や壊れた建物の残骸で封鎖されて、とても走れそうにありません。
「っ!!」
私は仕方なく、走って家まで帰ることにしました。
「はあ!はあ!・・・っ!?」
工場地区から逃げる人達に何度もぶつかりながらも私はひたすら走り続けました。
「っ!?ああ!?私たちの家が!?」
夢中で走り続けた私は、漸く自分の家に辿り着きました。
けれど、おばあちゃんと暮らしてきた家は、激しい炎に飲まれながら今にも崩れそうになっていました。
ゴオォォォッ!!
「!?」
その時、近くから凄まじい轟音が聞こえてきました。
それは、間違いなく高出力の『発導機』が稼働する音でした。
ゴウゥゥゥ!!
『おいっ!!ここらはあらかた焼き尽くしたぜ!』
『よし、このまま市街地も焼き尽くすぞ、いいか?
『『ライズ』の町は
その時、轟音のする方から、複数の『拡声魔導』による声が聞こえてきました。
私が声の方に目を向けると、そこには二機の
『よーし、もういいだろう!とっとと市街地に行ってズラかるぞ!』
『それにしても、本当にこんな田舎の工場町に
『ああ、この町の住民には悪いが、我々の礎となる為に死んでもらおう』
キイィィィィィ!!
ゴウゥゥゥ!!
「きゃあ!?」
私は二機の
先程の
「おばあちゃん!!」
バァン!
不幸中の幸いで先程の暴風によって家を焼く炎が弱まったので、朽ち果てた玄関の引き違い扉を体当たりで破って家の中に転がり込みます。
「ごぼっ!!おばあちゃん!どこにいるの!?」
私は燃え盛る炎による煙に咽せながらも、必死におばあちゃんの姿を探します。
「ア・・アリ・・ア」
「っ!?おばあちゃん!!」
微かな声を頼りに床を這っていくと、家の隅で血を流して倒れているおばあちゃんを見つけました。
「っ!?おばあちゃん!足が!?」
おばあちゃんの足元に目を向けると、そこには崩れた屋根の瓦礫が積み上がっていました。
「今助けるからっ!!」
私は慌てておばあちゃんの上に積み上がった瓦礫に手をかけようとします。
「おばあちゃんはもう駄目だよ・・ごめんね、アリア・・
そう言うと、おばあちゃんは掌に収まっている薔薇をモチーフにしたバレッタを私に手渡しました。
手にしたバレッタはとても精巧に出来ていて、宝石は一切付いていませんが一目で市販のものではない特別な逸品とわかりました。
そして、そのバレッタは高価な
「コレは一体!?どうしてこんな物のためにおばあちゃんが!!イヤ!!私、おばあちゃんを置いてはいけない!!」
私はすぐにバレッタに興味を無くしておばあちゃんに泣き縋りました。
しかし、おばあちゃんは首を横にふると、血に濡れた手で優しく私を撫でました。
「いいかい?よく聞くんだよ?このバレッタは私達の家系に代々受け継がれたもので、本当はアリアが成人した時に渡そうとした物だよ」
「このバレッタは『
「プラ・・ティウム」
私は、おばあちゃんから聞いた話を俄かには信じられませんでした。
そして、私は受け取ったバレッタが『
『
そして、この『
それは・・『女神ハーティルティア』様です。
故に、『
そして、世界にある全ての『
しかも、このバレッタは『収納魔導』を常時発動できるほどのマナを出力できる、
少なくとも、私なんかがおいそれと持って良い代物では無いはずです。
「ごふっ!!」
「おばあちゃん!!おねがい!もう喋らないで!!」
しかし、おばあちゃんは静かに首を横に振ります。
「このバレッタの中には一機の
「私達はついぞ動かすことは叶わなかったが、おばあちゃんはアリアにならきっと動かせると思っているんだよ」
おばあちゃんは優しく微笑みながら私の頬に手を添えます。
その手を私は必死に握り返します。
「いいかい?もし、これから先アリアが必要と思った時は、そのバレッタから
「きっとそのバレッタがこれからアリアの事を護ってくれる。だから、泣かないで・・アリア・・強く、生きるんだよ」
「おばあちゃんはこれからもずっとアリアの胸の中で生きていくよ。だから・・きっと普通の幸せを掴みんだよ・・愛しのアリア・・」
「イヤだよ!おばあちゃん!ずっと私と暮らしていくんでしょ!?本洗礼の時は一緒に教会へ行ってくれるんでしょ!?」
私は必死におばあちゃんに語りかけます。
「おはあ・・ちゃん?」
しかし、静かに目を閉じたおばあちゃんは、二度と目を開けることはありませんでした。
「嘘・・嘘よ!!おばあちゃん!!おばあちゃーーん!!うわあぁぁぁぁ!!」
そして、私は燃え盛る炎の中でおばあちゃんを抱きしめながらひとしきり泣きました。
ズーン・・ズーン・・。
その時、背後からわずかな揺れと共に大きな足音が聞こえてきました。
「・・っ!
私は後ろ髪を引かれる思いでおばあちゃんを置いて家を飛び出します。
そこには、先程の
そして、
私の予想が正しければ、
「そうですか・・全部あの『
全てを悟った私には、言いようのない怒りが湧き上がってきていました。
「どんな理由か分かりませんが・・なんの罪もない人達を・・『ライズ』の町を・・そして、大切なおばあちゃんを・・」
「私から全てを奪ったあなた達を!私は許しません!!」
私は手にしたバレッタを自分の黒い髪に付けると、考えを巡らせます。
もし、私のご先祖様が遺したこのバレッタが、『女神ハーティルティア』様によって生み出された『
このバレッタに収められた
それは、歴史の中で行方がわからなくなったと言い伝えられている、今から千年前に『女神ハーティルティア』様と共に『邪神デスティウルス』を滅ぼした二機の『
それは、『白と黒』の一つ。
それは、人智を超えた『神の力』。
私は歴史に刻まれた、伝説の名前を口にしました。
「お願いします!『メルティーナ』!!私に力を貸してください!」
パアァァァァ!!
直後、バレッタから眩い白銀の光が放たれました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます