ダメージ。
「勝った…」
そう呟いた瞬間、自分でも気を抜いてしまったのがわかった、あぁ…やばいな、腰が傷んできた、ノルドを倒した直後のアメリアさんもこんな感じだったんだろう。
「おい…全員動けるか?」
ヤタさんが通信で全員に声をかける、見渡してみれば今すぐ動けそうなのはヤタさんに時義さんの二人だけだ、自分は脇腹の火傷の痛みで悶え、比和子さんも足を気にしている様子、アイは…アイがペイルハンマーを撃った右手をブランとさせて左手で抑えながら蹲っている…。
「アイ…!」
アイが蹲っているのを見て、反射的に身体はアイの方に向かっていた。
「……ぁぁ……うぅ……」
アイは必死に腕を抑えて
「スノウ、脱出するぞ」
「はい…」
自分もかなりダメージがある、脇腹がジンジンとまるで針を刺され続けるような痛みを感じているけれど、アイの方が酷そうで心配のほうが勝つ。動けないアイを抱きかかえ、吹き出る汗でヘルメットの視界が水滴で邪魔をされるのを我慢しつつ、大型艦エイリークの割れたブリッジのフロントガラスから脱出する。
時義さんの機体も反動でガタがきているらしく他に誰かを抱えれる機体状況がないと伝えたことで、比和子さんはヤタさんが肩を貸す形で脱出し、時義さんの機体が最後にフラつきながら出てくる。
脱出してからエイリークを振り返ると、エイリークは赤く燃えていた。
「時義さん、大丈夫ですか?」
「なに、儂は機体だけだ、身体はピンピンしとる」
「良かったです」
機体ならスグに修理ができるので大丈夫だろう、このエッダの反乱もこれで終わる、コレ以上の戦闘はないだろうから、後は被害状況だな…。
最初に脱出したのを迎えに来たのはオモイカネ所属小型艦ワダツミ。緊急事態という事で、一度全員を艦に回収してArcheを取り外す。
「…治療するぞ」
ヤタさんはアイと俺、それに比和子さんの三人を連れて医務室へ連れて行く。
「アイ…その腕」
アイの腕は宇宙服からでもわかるぐらい損傷していて怪我の具合が酷そうなのがわかる、これは確実に折れるな。
「アンタかってその脇腹…」
「俺のはただの火傷だよ」
「火傷は舐めたらアカンって…なあ?」
「えぇ、火傷は恐ろしいですよ」
女性二人に同時に
治療室に入るとヤタさんが手際よく治療を始める。
「まずはイチゴと比和子、宇宙服を切るぞ」
そういうと特殊な医療用のハサミを取り出す、これは宇宙服のジェルが飛び散らないように切断面を閉じるように設計されたハサミだ、全開アイが服を脱ぐのを嫌がったので高いけれど経費で買ったらしい。
まずはアイはレントゲンを取らされ、比和子さんと俺は両方とも火傷なので濡れたタオル越しにビニールに入った氷水を患部に当てて一時的な処置をする。
俺の火傷はヤタさんの診察では面積は広いものの酷いものではなく、軽度と診断された、少し跡は残るらしいけど、比和子さんの火傷はソレよりも軽く跡も後遺症も残らないぐらいだが、ブースターが爆発した影響で捻挫も併発しているので安静が必要だと判断された。
一方でアイはかなり重症で骨折治療をしなければいけないと判断され、医務室の奥へと連れて行かれる。
「ヤタ殿は治療もできるのですね」
「元々ソッチが本職らしいよ」
「ほう、それは素晴らしい」
ヤタさんは元々医者で、本人に聞いたわけではないけれど,イチゴさんに元々は結構大きな所で努めていたんだと聞いている。
二人でアイの手術を待っている時間で色々と雑談をする、戦場で最初にみた印象は…控えめに言って最悪だったけど、話せば悪い子ではないのがわかる。
身長はアイよりも少し低いぐらいの155cmぐらいで、腰どころかお尻ぐらいまで伸びている超ロングストレートの黒髪、目は少しクマがあるけれど気にならない程度で、顔立ちは整っていて日本人だ、まあ『鬼-ONI-』自体が構成員の八割が日本人の企業だからエースだって日本人の数が多くなるのは自然か。
ちなみにエッダに追撃されて負傷しているエースに外国人さんもいて、エッダの第二、第三艦を救助しようとした時に負傷したので月に撤退したらしい。
「お疲れ、イチゴは終戦処理中で、これから宇宙ステーションに戻るが…」
暫く雑談をしているとクガさんが入ってくる。
「比和子さん、どうします?」
クガさんが珍しく敬語を使いながら比和子さんに今後を聞く。
「母艦が来れば帰ろうと思いますが…宇宙服はあるでしょうか」
「だよな、そうなるよな、うん、すまん、ない」
「はい!?」
そう、当監に代えの汎用宇宙服は積んでないのである、いや本来は殆どの艦が積んでいるのは知っている、けれどこの少数経営の傭兵会社はそれぞれが専用の宇宙服を5着ずつ用意することで、クルーが汎用の宇宙服を使うこともなく、捕虜も他の傭兵会社に投げるから本当に使うことを想定していなかったのだ。
「え? 本当に…?」
「あぁ、そもそもウチも医療施設は自慢はできるが、大型艦の方が専用スタッフも多いだろ? だからわざわざウチで引き受けることも想定しなくてなぁ」
「そ…そのような状態で宇宙服を切られたのですか!?」
「いや、だからマジですまん、ヤタはそういうヤツなんだ」
比和子さんが宇宙服と患部をまじまじと見つめて硬直している。
「…いえ、こちらの身の安全と、こう裸になることに配慮していただけたのは…わかるんですよ、わかるんですけど帰れなくなりますよね?」
「あいつ、治療優先するんだよ…」
「はぁ…まあそれ程身を案じてくれてるのであれば…」
一応は比和子さんも納得したらしく、溜息をつきながら諦めた。
「まあ鬼には積んであるんだろ? 宇宙服」
「えぇ、当然沢山あります、むしろ大手傭兵会社でない事が初耳で」
「おっと、それは本当に耳が痛い」
「ですが…まあ致し方ありません、父様に持ってきてもらいましょう」
「あ~、ごめん比和子さん、それできなくなった」
「なんですと?」
「あなたのお父さん、今先に鬼の母艦イブキに帰ってるんだけど、イブキの損傷がね、かな~りまずい状態らしくて、エッダに牽引されて今先に帰還中なの」
「はて…それでると
「置いていかれました」
「なんですと!?」
嘘だろおい、エースが置いていかれたぞ、比和子さん目を丸くしながらキョロキョロしてドッキリかなにかかと呟きながら周囲を見渡してさえいる。
「ドッキリじゃなくて本当です、でも安心して宇宙ステーションハヤブサで比和子さんを帰す予定を組んで、その間当艦で面倒を見るってだけだから」
「な、なるほど…?」
比和子さんは理解はしきってない様子だけど、とりあえず納得はしたらしい。
「部屋は開いてる一室にがあるのでソコを案内します、寝袋もあるよ、それと食事は他のクルーに言ってくれたら作ってくれます」
「これで寝袋すら無かったら暴れるところでした」
「うん、あるから安心して」
なんかこのエース、鬼の中でも扱いが雑なんじゃないかという気がしてきた、でもまあ…どう考えても言うことは聞かないし単独プレーだからお互い様なんだろうな。
「ただいまやでー」
暫くしてアイが医務室から帰ってきた、1時間ぐらいの治療で腕にはギプスが撒かれているし、腰の部分の宇宙服も剥がされて包帯を巻かれている。
「怪我の具合は?」
「全治一ヶ月、ヒビが入ったところにペイルハンマーなんて使うからこうなる、まあ医療技術の発展で数年前まで三ヶ月かかってたんだが、医療進歩のおかげだな」
「よかった…もう、無理しすぎだよ」
「カンニンやって…んで比和子さんも泊まるんやっけ」
「比和子でいいですよ、不服ですが泊まることになってしまいました」
やはり不服なようで、比和子さんは不機嫌そうに顔をしかめる。
「まあ医者としてもArcheには暫く載せたくないから、妥当だろう」
「まったく…貴方のせいです、ヤタ殿」
「医療優先だ、謝らんぞ」
「…むう、それを言われてはしょうがありません、納得しましょう」
「それにしても、結構やられちゃったね~、こりゃウチは一ヶ月は休業しなきゃかな~…アイは無理だし、機体損傷も激しいし…無事なのはヤタだけだね」
「すいません」
「なんでスノウが謝るのさ、悪いのは今回完全にエッダだよ」
「けど、もうちょっと早く援護してたり、不用意に近づかなければ…」
「それはスノウの思い上がりだよ、見てみなよ今回ってスノウだけじゃなくて、かな~りエースの負傷者が多いんだよ?」
今回負傷したエースはエッダから逃げている時に負傷した鬼の二人に、アメリアさん、比和子さん、そして俺とアイの6人でかなり多く今後の戦況にかなり影響を及ぼす数が負傷してしまった。
「それだけの戦闘で死者や離脱者がでなかっただけヨシとします」
確かにこの先獅子座が控えているというのにここで戦力が減るのはかなり痛い、というよりも既にエッダがいなくなっただけでかなり不利だ。
「了解です」
こうなってくると、ここから先の戦況がいよいよ不安になってくる。
「スーノーオー…てりゃ」
「うおっ…!」
「なぁに辛気臭い顔してんねん、ヤタさんが呼んでるで」
「だからって…傷口はやめろよ…」
考え事をしていたらアイに横腹の火傷を指でつつかれた、かなり痛かったけどアイなりに元気づけようとしてくれ…たのかはわからないが気はそれたので痛みを我慢しつつヤタさんの治療を受ける、自分の傷は火傷だけで済んだので薬を塗り、包帯をまくだけでサッと終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます