首狩り少女。

 エッダの兵士は頑強である、反動の大きな銃が基本的に支給されており、ライフルかショットガンかを選択できる、エッダの旗艦に乗れるのは基本的に組織の中でもエリートや実績があるものが選ばれ、更に大型の近接武器を与えられる。


 エッダの戦士は、乱暴だろうが傲慢だろうが実力さえあれば許される完全実力主義であり日夜、金と地位、そして各々の欲望に貪欲であれと言われている。


 ―――そんなエッダの戦士は目の前の無邪気な少女に怯えていた。


「フフフ、やりましたよ父様! またひとつ首を上げました!」

 少女はそう共用通信のチャンネルで父に心の底から嬉しそうに報告する、父は素っ気なくそれに返答するが、彼女は次の得物に向かって高速で加速してまた首を自身の手に持った刀型の近接武器で刈り取って嘲笑う。

「あぁ、今日はなんていい日! こんなに沢山首が貰えるなんて」


 エッダの中でも戦争だから慣れもしてる人間は居るし、敵を倒して喜ぶものもいる、だがココまでではない、彼女はなにかは根本的に違うのだが、エッダの兵士にはソレがわからず恐怖する、人が最も恐怖するのは未知なのだ。その未知が物理的な死を纏って喜々として自分達を襲ってくるのだから堪らない。


 あるものは足が竦み、あるものは硬直して、あるものは反撃も虚しく次々と首から上を失っている、コレが味方じゃなかったらタダの恐怖映像なのだが、まことに残念ながら味方である、しかもエースでありそれなりの地位もあるし、この行為だって言動がオカシイだけで地球からすれば違反行為は全く無い。


「いやアンタ狂ってない!?」

 思わず叫び声を上げたのはこの惨劇を必死に食い止めようとしているエッダの女性エースであるシーイ、頑張って味方のフォローに回ろうと両腕のサブマシンガンを使ったり斧で斬りかかろうとしているが、ヒョイと避けられてまた一人彼女の味方は戦闘不能になっていく。


「はて…なにが狂ってるのですか?」

「アンタのその態度だよ!」

「態度、はて…オカシイ事を言うのね?」

 その間にもヒョイヒョイとクイックブーストを上手く使い、彼女はシーイの攻撃を交わし続け翻弄するので、シーイは苛立ちが積もっていく。


「態度って何の事かしら、私、てんで見当がつきません」

「その…敵を殺すこと自体を楽しんでる態度よ」

「はてはてはて…? はてはてはてはてはてはてはて?」

 よく分からない、といった感じで彼女は動きながらも首を傾げて悩む。


「首級をあげて嬉しいのは、一般常識じゃないのかしら?」

 彼女はくるりと縦に回転しながらまたひとつ、首を狩る。

「っまた…!」


 彼女の動きをシーイが止められないのは理由がある、比和子の装備は極限まで装甲を薄くした軽量型である、背中に体が隠れるほどの楕円形の盾だけは持っているものの、RKSシールドに使うエネルギーすら推進力に変換し、産まれつき高かった対G耐性を訓練により更に伸ばした、人間の限界ギリギリのクイックブーストによる方向転換、そして武器は全弾数3発の単発式のハンドグレネードと、大量の刀だを所持している。


 一見無茶な動きでも彼女は身体の柔軟性も高くなんなくこなし、上下左右に飛び回って相手に近づいたら的確に刃を首に水平に引き斬って分断する。


「敵を殺すのは当たり前じゃないかしら…戦争なのよ?」

「だからって…限度があるでしょ!!」

「それ貴方達が言うのです? 滑稽、味方を駒にして酸欠にもした貴方達が言うのは本当に滑稽!」


 そう言って今度はシーイに向かって刃を振り抜くが流石に相手もエースだ、シーイはなんとか斧でその攻撃を防御し、同時に蹴りを見舞おうとするが、そのケリは空を虚しく通り過ぎる。


「コッチだってね…少なくともアタシは反対だったのよ!」

「あら、でも最終的に抜け出さなかったのも、止めなかったのも、ここで主君に仕えて戦ってるのもぜぇんぶアナタですよ? どうして言える義理があるのかしら?」

「私にだって…都合があったのよ!」


「そう、でもそれで大量に敵を殺したのよね、いいじゃないですか! 大戦果ですよ? 誇っていいんじゃないでしょう?」

「あんあたねぇ!」


 思いっきり、全力で斧を振りかぶるが比和子は既にそこにおらず、近づいていた兵士の首を刀で人刺しして横へ刃のある方へ引き抜く。

「はてはてはて………なぁんでそんなに怒ってるのかしら、お父様、わかります?」

「…さてな」


 お父様と呼ばれた男は、腰持ちをしている巨大なガトリングで周囲の兵士を近づけないようにただただ、牽制する役目に徹している。


「あぁ、でもいけない、話が逸れました!」

 くるり、と首から先に身体を方向転換して警戒しているシーイの方へ向きかえる。

「………お前よくも…よくも!」


「はて…まさか仲間の仇とか言うつもりはありませんよね? オカシイですそれはオカシイです、一般常識が欠如してらっる?」

「…安心しなよ、元仲間を切り捨てた私達に言える義理がないのは解ってるわ」

「あぁあぁあぁ、それを聞いて安心しました、では改めて殺し合いましょう!」


 彼女はクイックブーストを使い高速でシーイに向かって直進する、それをサブマシンガンで迎撃しようとするも、常人ならGによるレッドアウト(マイナスGによるブラックアウトと同じ症状)を起こしかねないほど急上昇し、それを避けながらシーイの頭の方へ向かう。


「っ!」

「あー気持ち悪い、貴方の姿が真っ赤、でもコレって気持ちいいのですよ?」

 レッドアウトの症状により、目を真っ赤に充血させながらシーイの防ごうとした斧を2回、3回と斬りつけていき、斧を蹴りつける。

 二度目になるが、この目を真っ赤にしている方が主人公の味方です。


「この…ちょこまかと!」

 一瞬ふわりと浮いた比和子に対して、シーイは斧のエネルギーブレードから電力を放射する、これは発射面積が広く電流なのでシールドを貫通しやすいが、コレを使うと斧の電源をすべて使ってしまうシーイの切り札。


「あああぁぁぁっぁあああ!」

 それを比和子は直撃ではないが左腕から先にかけて振れてしまい、全身に電流が流れていき痺れてしまう。

 そのスキを見逃すものかとシーイは思いっきり斧を振りあげる…が。


「ダメですよぉ…そんな勝ってもないのにスキだらけの振り方してはぁ」

 先に首が飛んでいたのはシーイの方だった。

「あぁ、斧のバッテリーの補助がないから…自分で振り上げるしか攻撃力を出せなかったんですね、ならしょうがないです、でも久々の首級だぁ…嬉しいですねぇ」

 彼女はシーイの首を愛おしそうに掴んでから、頭を撫でる。


「うん、でも久々に痛かったです、楽し方ですよ? ありがとうございます」

 周りのエッダ側のArcheはその様子を見て更に震える、だが恐怖は終わったわけではなく、むしろこれから彼らの恐怖は始まる。

「さて、まだまだ首があるわ…やっぱり今日はいい日ね、まだ首が貰えるなどと」


 シーイの首をポイと捨て、今度はまだ撤退していなかったエッダの戦士に向かってクイックブーストを使って接近し、首を斬っていく。


 けれどそれは次第につまらなく感じ始めていた。


「お父様、次はどうしたらいいでしょう? 戦艦に乗り込むべきでしょうか」

「いや、少しソレは待て」

「何故でしょう? 戦果をあげるのは武士の誉れでは」

「そうだ、しかしまだ早い」

「…はぁい、ではココでもう少し時間を潰しますね」


 彼女はきっと、戦艦に乗り込めば少しでも抵抗したと見なした相手全てを殺すだろう、そうなることだけは彼女の父親はせめて阻止したかったのだ、彼女の父はまだ、娘と違って殺していいのは戦闘員だけいう一線だけはポリシーとして残していたいと、願っている。


 そんな父親の願いをつゆ知らず。


 彼女はまた一つ一つ丁寧に敵に襲いかかっていく。


 あくまで彼女の方が今は味方です。

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