魚座。
アイの後にシャワーを浴びて、談話室に戻るとアイとイチゴさん、そしてヤタさんが話をしていて、俺が出てくるのを見るとヤタさんが次にシャワー室に入っていく。
「今回ヤタが一番ダメージおっきいかな~」
「そうなんですか?」
「前身打撲、特に右腕が無理したせいで結構傷んだんだって」
「…そうなんですね」
右腕と言えば、レーヴァテインの右肩を刺した状態で弾き飛ばされた時だろう、そんな状況でも自分達の治療までしてくれたのには感謝しきれない。
「みんな怪我だらけだね~、怪我の報告はヤタが纏めてくれると思うけど帰ったら念のために病院に行くこと、いいね?」
「はい」
身体をぶつけたりもしたので、後々傷んだりしてる可能性もある。
「そんで…もう戻るん?」
「うん、パンゲアの第一艦隊だけ条約が結ばれるまで待機、あとは国軍の治安維持軍が常駐する為に来るから引き継ぎして撤退だって」
「なるほど…」
本当に終戦するまでもう少し時間がかかりそうだけど、もう魚座とは戦いになることも無さそうに思える。
「エースだけど、敵エース二名は投降してきた、ただしアルレシャだけは失踪……っていうより、多分エース二人に逃されたんだと思う」
「…ほかのコロニーですかね」
「多分ね」
アレルシャはエースのリーダーでは会ったけど、コロニーの政治的な代表ではない、わかりやすく言えば軍の司令官の様な立ち位置だ、恐らく別のコロニーに協力して再帰して地球へ復讐を狙ってくるのだろう。
「捕虜はどうなるんです?」
「見せしめに処刑………って事にはならないから安心して」
それを聞いてホッとする、断られたけれどレーヴァテインに投降を呼びかけたのもあるし、なんとなくいい気はしない、そもそも戦時国際法によると裁判をしないと処刑してはいけない…逆に考えれば裁判をすれば処刑しても良いとも言えるけど。
「多分
「なるほど」
「それと帰還についてなんだけど~、1日はクガがメンテと破損箇所のチェックしてからだね、ちょっと長いけど9日かけて戻る予定」
イチゴさんの説明に相槌をうって、ほかの細かい業務連絡も聞いていく。
その話がだいたい終わるととイチゴさんは「ん~~~っ!」と言いながら大きく身体を伸ばし、欠伸をして立ち上がり、個室エリアへ向かい始める。
「そうだ、途中で宇宙ステーションに一回よって、そこで打ち上げもするからね~」
そういうと小さく手を振りながらイチゴさんは談話室を後にした。
「ふう………」
上を向いて考える…今日俺は一人の人間を殺した。それは仕方なかったのだと思う、けれどどうしても殺さなければいけなかったのかという疑問と、それ以上に撃つ瞬間に抵抗感がなかったのが気になった、確かに自分は戦争をしに宇宙に上がったし、Archeという殺人兵器を見ても胸が高鳴った覚えがある。
「なんや悩んでる顔しとるなー」
アイが、頬をペチペチと叩いてくる。
「アレや、人を殺した罪悪感?」
「…よくわかるね」
「まー、だいたいテンプレな悩みやから」
アイは苦笑いしながらコーヒーを持ってくる、エスプレッソのとても濃いやつだ。
「アイはさ、どうだったの?」
「ウチもなー、最初は抵抗あったんやけど…あれ?」
アイは急に表情を変え、目を閉じ口を一文字にして考え始める。
「アイ…?」
「アカン…なんでやろ、思い出されへん」
「えっと、無理に思い出さなくてもいいよ?」
「ちゃうねん、そういうワケやなくて…」
アイは困惑したような目つきでこちらを見つめる。
「どのタイミングで慣れたんかわからへん」
「慣れなんてそんなもんじゃないの?」
「そう言われたらそうやねんけど、今は戦争なんやから当たり前って思ってるんや」
「うん」
「いつからそう思ったってのが無い気がするんや」
うーん、アイが何をいいたいのかよくわからない、けどアイが不安がってるのがわかる、これ以上この話を続けるのはなんとなく良くない気もしてくる。
「…うん、辞めよっかこの話」
アイを抱きしめて背中を撫でてやる、これでちょっとぐらい不安が和らげばいいんだけど。
「………」
アイは無言のまま体重を預けてくる。
…
……
………
そうしていたらプシューという音とともにシャワー室の扉が開き、慌ててアイは俺から離れて姿勢を正す。
「…あぁ、気にするな、続けて」
ヤタさんはシャワー室から出るとそのまま普通に食事の準備を始める。
「あ、いやすいません」
「なぜ謝るんだ?」
ヤタさんの表情は心底理解できないという、不思議そうにしている。
「なんかイチゴ達も謝るんだよな、こういう時」
確かになんとなく気まずいし、申し訳なくなって、つい謝ったけど『何故?』と理由を聞かれると明確に言葉にするのが難しい。
「あと、俺に気遣ってよくイチャイチャするの辞めたりする…なんでだ?」
「それはヤタさんに気遣ってるんですよ」
「…ふむ」
やはり理解できないな、と呟くとヤタさんもコーヒーを飲み始める。
「ところで、アレはどうするんだ?」
「アレって?」
アイが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、ヤタさんは別の話題を切り出す。
「持ち帰った、アレだ」
「…直接譲られたんです」
「そうか…すこしバランスは悪くなるぞ」
「それでも使ってみようかと」
「そうか」
コロニーや火星から鹵獲した武器や機体を使うことは珍しくはない、そもそもArche自体が最初の発明はアルゴ座の名を冠した中立の立場を表明している巨大コロニーで、作業用ユニットだったのを開戦と同時にコロニー勢力が軍事転用し奇襲してきた、そのせいで正規軍が激しく消耗してしまい現在の傭兵が主流になった背景がある。
「クガに相談して、カスタマイズに金をかけろ」
「はい…足りますかね?」
「エース撃墜は、撃退や補助の時より多額の金額が入る」
「後はそやなぁ…結構政府から補助が入るで、国籍とか変えんといてーって」
「なるほど」
そういえばアイも宇宙ステーションで優遇を受けていたのを思い出す。
「にしても立つ瀬がない」
「なにがです?」
「一番古参なのに俺だけエースじゃない」
言われてみたらとアイと俺は固まる、どうしようこっちは気にするのか?
「一番の古参なのに新人二人に抜かされて申し訳なくなってな」
「いやいや、どっちかというとウチらこう、たまたまというか」
「運も実力の内という、アイは実績もあるしな」
アイは 論破 されて しまった !
「俺なんてまだエースになるって決まってませんし、殆どヤタさんが倒したようなもんじゃないですか」
「エースを撃墜したらほぼ間違いなくエース認定だ、過程とか行政は見ない」
俺も 論破 されて しまった!
「いや、これは俺も頑張らないとなってだけだぞ?」
ヤタさんの性格を見るに嫌味とかではなく本心なんだろうとは思う。
「ま、エースだろうと君達に実力で負けてはないと思ってる」
「それはそうですよ、模擬戦で歯も立たなかったですし」
「…それはもうちょっと訓練しような」
「はい!」
ヤタさんはクスクスと笑いながらテーブルにコーヒーを置く。
「すまん、そういう畏まらせる気はなかったんだ」
笑いながら二人の顔をそれぞれ、改めて確認して
「頼もしい仲間ができて嬉しいって話だよ、これは」
そういうと談話室内の調理場へヤタさんは移動する。
「頼もしいやって」
「あぁ」
素直に嬉しくなる、戦力として自分は思ったより役に立ってるんだな、と思えて。
「さて、ウチらもご飯食べよっか」
「うん、何がいい? 作ってくるよ」
「じゃあお好み焼き! 豚玉が置いてあるから一緒に食べよー」
「わかった」
お湯を沸かすヤタさんの隣で、冷凍の豚玉を二つ宇宙食用のオーブンへ放り込んだ。
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