ステーション。(1)
宇宙ステーションのショッピングモールには地上や月面と違うところがある、それはレストランフロアや、子供服売り場はないところだ、レストランがないとはいっても、普通の料理が作れないからで、宇宙食を食べれるラウンジはある。
宝石店や香水、時計に化粧品までも特に一瞥すらせずにスルーする、そういうところが、アイらしいというかなんというか。
「服は見に行く?」
「んー、別にええかな今日は」
「そう? 奢るよ?」
「そこまで言うなら」
そうして二人で洋服屋に入って、ファッションを楽しむ、アイも最初こそ適当に選ぼうとしていたのだが、段々表情が真面目になっていく。
「なー、どっちがいい?」
最終的に白と黒のワンピースで悩んだようだ、アイの銀色の髪と同じ系統の白か、反対の黒色かの二択、正直ドッチも似合いそうで困る、しかしこういう時男性は答えを間違いやすいという、この質問は、『どっちも可愛い』か『片方を選ぶ』に答えが絞られる三択問題だ。
これが単なる承認欲求の場合、『どっちも可愛いよ』も正解に入ってくる場合がある、ただこれは直前にかなり悩んでた辺りなさそうだ、恐らく真剣にどちらが良いか悩んでいる。
ならば片方を選ぶに絞れるな、さて片方を選ぶ場合、答えは大体決まっている場合とこっちの好みに合わせたいの二択が考えられるという、この場合好みに合わせたいだけなら俺の好きな方を答えるのが正解なので一番楽な答えだ、
逆に既に相手の中で答えが決まってる場合慎重にならざるを得ない。
この間0.2秒
「うーん、白い方も清潔感があっていいし、黒はいつも見ない色だから見てみたい」
とりあえず両方肯定しておく、悩みを共感してみよう。
「そうやろー、うーん」
白のほうに目線が移動する、やっぱりいつもの白の方が良さそうかな。
「白いほうが好きだよ、俺は」
「じゃあ白にするかー」
よし、無難に乗り切った、乗り切りはしたけど。
「ねえ、黒の方も買っていい? 着てるとこ見たいし」
「え? あー、ええよー」
とりあえず自分の欲望も優先しておく、正直悪手かも知れないけど。
会計を終えて次の店を探しに散歩を始める。
「ねー、スノウちょっと聞きたいんやけど?」
「ん、なに」
「男性が服を送る意味って『その服を脱がせたい』って意味らしいんやけど、ホンマなん?」
「へっ!?」
待ってくれ、ソレは聞いてない。
「それ、初耳なんだけど」
「そうなんや、で、実際どうなん?」
「意識してなかったよ」
「そっかー」
焦った、実際意識してなかったんだけど、そう意味とかあるんだ。
「次あの店行かへん?」
アイが指を指した先にあるのはミリタリーショップ、普通のデートでは行かなさそうな店だけど、俺達みたいなのには良さそうなお店だ。
「いいよ」
店にはいると、武器や応急処置用のパーツがメインにあるコーナと雑貨コーナーに分かれている、店での修理やカスタマイズはやって無い様だけだけど。
「結構色々あるね」
「前線向けだろうし、ラインナップも」
地上のミリタリーショップショップと違う点は迷彩服系は置いてなかったり、地上専用の装備は売ってないところだ、というより傭兵用の本物が売っている点だろう、当然購入には身分証明書などが必要だけどそもそもココに寄港する事自体が観光客は難しい。
「なにか欲しいのあった?」
「んー、一応月面で大概揃えてもうたからなぁ」
武器も機体パーツも今更買い替える意味はないし予定には間に合わない、修理パーツぐらいは買ってもいいだろうけどそれも結構揃えた。
「そっちはなんか要らんのん?」
「こっちも同じ様な感じだよ」
「近接は? 訓練するって言ってたし」
確かに近接武器はまだナイフのままだし買ってもいいかも知れない…けどここで買うのは割高だし、あまり良いのは買えないと思う。
「うーん、流石に買い換えるのに良さそうなのが…」
「これは?」
アイが手渡してきたのは特価と書かれた3世代ぐらい前のビーム型の剣タイプの近接武器だ、使用時に刀身が伸びてエネルギーを纏うことで切れ味を賄うもので、物理型もエネルギーだけで出来ている型も防ぐことはできる、弱点は充電式で使用可能時間が10分と短く緊急用の域は出ないところだ。
「特価って言っても…安っ!?」
なんとお値段1万円、しかも新品らしく動作保証付き、完全に在庫処分セールだけど今のナイフより遥かに安価で使いやすい。
「買っとこ」
掘り出し物とまでは行かないけどコスパはいいと思う。
「間に合わせにはええと思う」
「うん」
それと寝袋でも買っておくか、今の寝袋はすこし固めなのでもう少し素材がいいものが欲しい、武器などは数十万かかるので、なかなかさっきみたいに桁違いに安いものがない限り買えないけど、いい寝袋を買うぐらいならそんなに予算は…って
「高っ!?」
いや武器よりは安い、安いんだが宇宙専用に取り付けが可能な寝袋の値段は最低1万円ぐらいから、高いものだと10万円を軽く超えている…と言っても10万以上のはさすがに防災用だとか、雪山だとか万が一の事故に備えての耐衝撃性と遭難信号に何故か宇宙空間に出ても大丈夫な密閉機能付きという無駄にハイスペックなものだ、流石にココまでのは要らない。
「見て、二人用寝袋半額セールやって」
「…誰が買うんだよ」
しかもそれの二人用だと半額で6万ぐらいで売ってる、売ってるんだけどいる?
「ほら…万が一に」
「俺、普通にふかふかになれば何でも良いんだけど」
「それやったら割と2万ぐらいのでも十分長持ちするで」
「じゃあソレにしよ」
「二人用のは買わへんの?」
アイが笑いながら冗談を言ってくる、買わないのをわかってて言ってきている。
「誰と入るんだよって…なるほど」
なるほど、と納得したような顔をしながらアイの方を見つめてみる、多分そういう意図がアイに一切なかったのはわかってるけど、からかってみる。
「え゛っ! ウチと!?」
「そういう事じゃないの?」
「ちゃうちゃう、ってかウチはなにを言ってたんや!」
あ、自分が言ってた意味を自覚して顔を赤くしてる、涙目にすらなってる。
「あはは、冗談だって、わかってる…よし買っとこ」
「え、ホンマに買うん!?」
「暫くコレでアイをからかえそうだし」
「いやそんな理由で!?」
もちろんそんな理由だけじゃないし、期待がないわけでもないけどちゃんと真面目な方の理由も用意してある。
「個人用の緊急防護用のものってあった方がいいってパンゲアの人に聞いたんだよ」
「うん…それで?」
「前回大型艦が沈んだ時、自室待機してた人が自室に脱出用のミニボックス…折りたたみのやつなんだけど、そこに逃げ込んで助かったって」
「そう言えばウチもベッグさんから聞いてたけど…」
「アレって高いから、代用品が6万円なら安くない?」
実際その脱出用のミニボックスは部屋の隅っこに高さ2mぐらいの板を立てかけるだけで設置自体はできて、ワンタッチで2m四方の立方体になって事故の爆発や衝撃から身を守ってくれて、数日間のサバイバルも可能にしてくれる…が、100万円ぐらいするので浸透してない。
「…確かに、買いかも知れへん」
慌てた様な表情から一転、真面目な顔をして納得される。
「それが寝袋である必要も一切ないんだけどね」
「寝袋やとアカン理由もないわけやん…?」
なんだよね、だから微妙に困る。
審議の結果、2万円ぐらいの寝袋と6万円の防災用二人用寝袋を買うことにして、戦艦までの配達サービスを頼む、これで戻る頃には届いてるはずだ。
「もしもの時は、ウチもそれ入れてな?」
「いいよ」
もしもの時が来なきゃ良いんだけどね。
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