第846話 旋斧と岩砕剣
「おいおい、何の真似だ?悪あがきはよしな……」
「自分の身の丈はある大剣を軽々と持ち上げるとは……成長したな」
「…………」
ナイはマジクとシャドウと向かい合い、意識を集中させる。右手の旋斧には聖属性の魔力を宿し、左手の岩砕剣は地属性の魔力を流し込む。
煌魔石を失ったので旋斧に関してはナイは自分の魔力で補い、その一方で左手の岩砕剣は地属性の魔石から魔力を補っているが、今日は既に何度も魔法剣を使用しており、魔石の魔力も残り少ない。
(魔力を保ち続けられるとしたら……数分かな)
数分の間にナイはマジク、シャドウを倒す必要があり、覚悟を決めた彼は二人の元に駆け出そうとした時、横から火竜が邪魔に入った。
「グガァアアッ!!」
「邪魔!!」
「アガァッ!?」
飛び掛かってきた火竜に対してナイは無造作に岩砕剣を振り払い、顔も向けずに火竜を吹き飛ばす。巨人族に殴りつけられたかのように火竜は吹き飛び、壁にめり込んで苦悶の表情を浮かべる。
圧倒的な力で火竜を吹き飛ばしたナイに対してシャドウは冷や汗を流し、マジクでさえもナイの成長ぶりを見て驚きを隠せない。マジクと出会った時よりも今のナイは何倍もの力を身に付けており、リョフを倒した力は伊達ではない。
「シャドウよ……ここは儂に任せろ」
「何だと?」
「お主はまだ死ぬべき時ではない。早く行け、ここは儂一人で時間を稼ぐ」
「ちっ……」
マジクの言葉にシャドウは舌打ちすると、彼は吹き飛ばされた火竜の元へ向かう。その様子を見てナイはシャドウの行動を止めようとしたが、マジクは杖先から黒色の雷を放つ。
「
「くっ!?」
ナイは放たれた電撃に対して岩砕剣で受けると、地属性の魔力が雷属性の魔力を弾き返す。どうやら聖属性と闇属性のように地属性と雷属性の魔力が相反する性質を持つらしく、魔導士の魔法攻撃をナイは弾き飛ばす。
「やああっ!!」
「ほう……儂の電撃を受けるか、本当に成長したな」
「マジク魔導士……もう止めてください」
「……止められぬよ、儂はもう魔導士ではない。ただの骸じゃ、ならば遠慮せずに戦え!!」
マジクに対してはナイはどうしても戦いたくない相手であり、彼が居なければ火竜との戦闘で討伐隊は全滅していた可能性もある。命を懸けて散ったマジクの事はナイも尊敬していたが、まさかこんな形で敵として彼と戦う事になるとは思いもしなかった。
しかし、当のマジクの方はナイを相手に本気で戦うつもりらしく、彼は杖を構えると黒雷を迸らせ、先ほどよりも強烈な攻撃を繰り出す。
「ライトニングレイザー!!」
「いかん、その魔法は!?」
「くぅっ!?」
杖先から圧縮された電撃が放出され、光線の如く放たれる。それに対してナイは岩砕剣で受け止めるが、周囲に電流が拡散される。あまりの電圧と勢いにナイは身体が後退し、壁際まで追い詰められる。
その様子を確認したシャドウはマジクにここを任せる事に決めると、彼は壁に埋もれた火竜に対して影の触手を伸ばして壁から引き剥がす。
「おい、起きろ」
「グゥウッ……ガアアッ!!」
「おっと、俺に逆らえると思うなよ」
「アガァッ!?」
影の触手を利用してシャドウは火竜を拘束すると、火竜は全身に纏わりついた触手のせいで自由に動けず、その間にシャドウは火竜の背中に乗り込む。それを見た他の者達は止めようとしたが、全員がとても動ける状態ではない。
「マジク、俺は一足先に地上に行かせてもらうぞ」
「ああ……さらばだ」
「……助かったぜ」
「待て、シャドウ!!逃げる気か!?」
マジクとシャドウはこれがお互いの最後の会話になる事を悟り、別れの言葉を継げるとシャドウは騎士達を影の触手から解放すると火竜を無理やりに従えて走り出させる。
拘束から解放されたロランは後を追いかけるが、他の騎士達は思うように動けず、影の触手に触れ続けていたせいで彼等の聖属性の魔力は大幅に消耗していた。そしてナイの方はマジクが放ち続ける光線を防ぐのが限界であり、壁際に押し込まれた状態から動けない。
「どうした!!このままだと奴に逃げられるぞ!!お主の力はその程度か!?」
「ううっ……!?」
ナイは漆黒の雷の光線を放ち続けるマジクに対し、岩砕剣だけでは抑えきれずに旋斧も構えて両手の大剣で光線を防ぐ。このままでは押し負けて黒焦げにされてしまうが、打開策が思いつかなかった。
(強い……このままだとこっちの魔力が切れる)
自分の魔力と地属性の魔力が急速的に消耗していく感覚に陥り、味方の騎士達も動く事ができない。このままでは駄目かと思われた時、マジクが諦めかけているナイに声をかける。
「どうした、それで終わりか!!お主も器ではなかったのか!!」
「器……!?」
先ほどから気になっていたが、マジクの語る「器」という言葉にナイは疑問を抱き、それにマジクからは殺気の様な物は感じられない事に気付く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます