第822話 因縁の決着

――アルトによって吹き飛ばされたリザードゴブリンは造船所から離れた闘技場近くの街道まで飛ばされ、派手に地面に叩き付けられた。死霊人形でなければ死んでもおかしくはない程の衝撃を受け、リザードゴブリンの肉体は歪な形に折れ曲がる。



「シャギャアッ……!?」

「ひいいっ!?ま、魔物だぁっ!?」

「ど、どうして上から落ちてきたんだ!?」

「馬鹿、そんなのいいから取り囲め!!大分弱っている様子だぞ!!」



街道には警備兵達が巡回しており、急に空から降ってきたリザードゴブリンに対して警戒する。その一方でリザードゴブリンの方は身体を痛めながらも起き上がり、直後に肉体に異変が生じた。



「グゥウウウッ……!!」

「う、うわっ!?な、何だこいつは!?」

「ほ、骨が……!?」



衝突の際にあちこち折れ曲がっていた肉体が徐々に戻り始め、やがて元の姿へと戻る。肉体を動かす闇属性の魔力が無理やりに折れた骨を元に戻し、更に怪我を覆い込む。


リザードゴブリンは元通りに戻ると、怒りの表情を浮かべながら自分を取り囲む警備兵達に視線を向けた。正直に言えば自分をこんな目に遭わせたアルトを殺しに向かいたい所だが、まずはこの邪魔者たちを蹴散らそうとリザードゴブリンは動き出す。



「シャアアッ!!」

「ひいいっ!?」

「こ、殺されるぅっ!?」

「お退きなさい!!」



あまりのリザードゴブリンの迫力に警備兵が怖気づく中、ここで何者かがリザードゴブリンの前に立ちはだかり、真紅のランスを突き出す。



「爆槍!!」

「ギャアアアアアッ!?」

「ド、ドリス様!?」



ランスがリザードゴブリンの身体に的中した瞬間に爆発が発生し、そのままリザードゴブリンは派手に吹き飛ぶ。その光景を見て警備兵達は歓喜の声を上げ、魔槍「真紅」を携えたドリスは笑みを浮かべる。



「ふふふっ……ここにあった死体が残っていなかったからまさとかは思いましたが、やはりまだ生きていたのですね」

「シャギャアッ……!?」



ドリスは闘技場の周辺を調査した時、彼女は他の者達と違って魔物の死体の中からリザードマンとリザードゴブリンの姿ない事に気付いていた。


死体の処理をしていた人間から聞いた話によると、最初からこの場所にはドリスの語る二匹の死体などなかった話も教えてもらう。そのため、彼女だけは他の物と違ってリザードマンとリザードゴブリンが生きている事を確信する。




「丁度良かったですわ。私、やられっぱなしなのは我慢できませんの……ここで決着をつけてやりますわ!!」

「シャギャアッ……!!」

「貴方達は下がりなさい!!正直に言って邪魔ですわ!!」

『は、はい!!』



情けない恰好を見せた警備兵達を下がらせると、改めてドリスはリザードゴブリンと向かい合う。リザードゴブリンの方もドリスの事は覚えており、彼女から受けた爆槍によってリザードゴブリンの身体には火炎を纏っていた。


この時にリザードゴブリンはアルトの時の様に自分の身体に纏った火炎を喰らい、それを死霊石に送り込む。するとリザードゴブリンの口元から黒い炎が迸り、それを見たドリスは眉をしかめる。



「何ですの、その薄気味悪い炎は……」

「アガァッ……!!」



ドリスに対してリザードゴブリンは顎が外れな兼ねない程に口を開くと、口内から黒炎を放射しようとした。しかし、それに対してドリスは真紅を構えると、全く動じた様子も見せない。




――アガァアアアアッ!!




遂にリザードゴブリンはドリスに対して黒炎を放つと、一直線に彼女の元に黒炎は迫る。しかし、それに対してドリスは足元に力を込めると、ランスを握りしめて槍を突き出す。



「はあああああっ!!」

「ッ――――!?」



リザードゴブリンにとっては信じがたい事にドリスは黒炎の中に自ら突っ込み、そのまま彼女は黒炎を蹴散らしながら突き進む。あまりの光景にリザードゴブリンは理解が追いつかない。


自ら焼かれに来たのかと思う程にドリスの行動は常軌を逸した行為であり、普通の人間ならば自殺行為にしか思えないだろう。だが、やがて黒炎の中からランスが飛び出すと黒炎を纏ったドリスがリザードゴブリンの口内に向けて刃先を繰り出す。



「ふぁいやぁあああっ!!」

「オゴォッ!?」



少し変わった気合の雄叫びを上げながらドリスは真紅をリザードゴブリンの口内に突き刺すと、出入口を塞がれた事で黒炎はリザードゴブリンの体内に広まり、やがて胸元から上の部分が膨らんで内側から破裂する。


リザードゴブリンは断末魔の悲鳴を上げる暇もなく上半身が吹き飛び、残されたのは残骸と死霊石だけであった。ドリスは身体に纏った黒炎を振り払うと、彼女は火傷一つ負った様子はなく、外に飛び出した死霊石を見下ろしながら告げる。



「生憎と私に炎は効きませんわ……フレア公爵家は代々、火や熱に対して絶対の耐性を持ってますから」



勝利を確信した笑みを浮かべるとドリスはリザードゴブリンの死霊石に目掛けてランスを突き刺し、破壊に成功した――

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