第768話 光の世界に拒まれた人間
「はあ、はあっ……くそっ、流石に光の中で戦いすぎたか……!!」
シャドウは自分の全身を闇属性の魔力で包み込む事も出来ない程に憔悴し、暗い空間の中で身体を横たわらせる。彼が扱う闇属性の魔法は光が強い場所で発動させると、魔力が掻き消されてしまう弱点があった。
強い光が当たらない場所ならば問題はないのだが、今回の場合は日中のしかも明るい場所で戦い続けたせいで想像以上にシャドウは疲弊していた。もしもあれ以上に戦闘を続けていた場合、彼の命も危ない。
死霊使いとして生まれたシャドウではあるが、彼は小さい頃から日光を浴びると身体が衰弱する体質として生まれ、そのせいで弟のように表の世界で生きていく事は出来なかった。だからこそ父親の手によって裏社会に送り込まれ、現在へと至る。
「くそ、忌々しい……しばらくは休まないと無理だな」
暗闇の中でシャドウは身体を休ませ、夜になるまでは自分は動けない事を悟る。闇属性の魔力を回復するには暗闇などの空間で身体を休ませるしかなく、実は闇属性の魔力だけは魔力回復薬などでは回復する事は出来ない。
全属性の中でも闇属性だけは特異な存在であり、シャドウは普段から日の光が当たる場所に姿を現さないのは常に闇属性の魔力の消耗を抑えるためでもある。彼は表の世界では生きていけぬ肉体として生まれ、その事に本人は幾度も自分をこんな肉体に産んだ親を恨んだ。
母親の方は生前はシャドウの事を気にかけてくれたが、父親の方はシャドウは表の世界に出せぬ身体だと知ると、彼を裏社会で生きていける様に教育を施す。結果としてはそのお陰でシャドウは裏社会でも恐れられる存在まで育ったが、本人は父親の事を心底に憎んでいた。
(くそ親父が……)
昔の事を思い出してしまったシャドウは悪態をつき、気に入らなそうに暗闇の中で座禅を行う。今は魔力を回復させる事に専念し、その一方で彼は自分の魔力の大半を費やして作り出した「切札」の確認を行う。
彼は立ち上がって歩くと、ある場所に辿り着く。そこは完全な暗闇に覆われた空間であり、その場所には二つの棺桶が存在した。この棺桶の中身こそがシャドウの最後の切り札であり、これを使えばどんな敵が現れようと勝つ事が出来ると確信を抱く。
「お前等の出番も近そうだな……悪く思うなよ、相棒」
棺桶の上にシャドウは座り込み、彼はこの二つの棺桶の中に眠る存在をいつ蘇らせる事が出来るのかと楽しみだった――
――同時刻、宰相の方は王城の一室にて横たわる国王の姿を確認する。国王は安らか寝息を立てて眠っており、一見すると普通に休んでいる様にしか見えないが、彼が今日1日は目を覚ます事はない。
宰相は国王に薬を盛って眠らせ、今日中に全ての問題を解決した後、シャドウの力で自分の父親を偽装し、公衆の面前で自殺させるように仕向ける。幸いにも父親と宰相は瓜二つの容姿であり、見破られる可能性は限りなく低い。
「申し訳ございませぬ、国王様……貴方の傍で支えきれない私をお許しください」
国王に対して宰相は謝罪を行い、この数十年の間、宰相は国のために尽くしてきた。しかし、彼が忠義を尽くすのは王族ではなく、あくまでも国家であった。
邪魔者である国王を薬で眠らせた宰相はその場を後にすると、ここで彼の元に兵士が駆けつける。兵士は宰相の前に跪くと、状況の説明を行う。
「大変でございます!!アルト王子が盗賊の人質に取られ、現在は南の城門にて捕らえられています!」
「何?王子は無事なのか?」
「それが盗賊に腹部を刺されたという報告が……しかし、今の所は生きているそうです。それと盗賊の仲間が市街地に侵入し、姿を眩ませました!!」
「……なるほど、そう来たか」
宰相はすぐにアルトを捕まえた盗賊の正体が彼の仲間だと悟り、王子という立場を利用して城壁を突破して中に入り込んだ事を察する。昔からアルトは頭の回転が速く、バッシュに万が一の場合が起きた時は彼がこの国を率いる立場という事で宰相も目を掛けていた。
しかし、アルトが王都へ戻って来たという報告を受けて宰相は考え込み、当然ではあるが彼に手を出す事は有りえない。この国では二人しかいない王子であり、片方に万が一の事態が陥ればもう片方が王位を引き継がなければならない。しかし、アルトの側近とあれば別であり、宰相は命令を下す。
「すぐに盗賊の仲間を探し出し、始末せよ。それともしもアルト王子の側近の王国騎士が見つかった場合、そやつらも拘束せよ」
「えっ……拘束、ですか?王国騎士を?」
「当然じゃ、王子を守る立場でありながらのうのうと盗賊に王子を人質に取られるなど騎士の恥、現時点を以てアルト王子に仕えるヒイロとミイナの両名は王国騎士の称号を剥奪とする。最も二人とも正式な王国騎士ではないがな……」
「は、はい!!」
王国騎士を拘束するという前代未聞の命令に兵士は戸惑うが、宰相の命令ならば従うしかなく、すぐに行動に移した――
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