第758話 白面の追尾

――時は遡り、ナイ達は王都へ侵入した後はどのように行動を取るべきか話し合う。まず、現状では王都内の味方になってくれそうな勢力は全員が捕縛されているか、あるいは動けない状態だった。


白猫亭では聖女騎士団が治療を受けており、警備兵に完全に取り囲まれていた。そのため、警備兵を何とかしなければならず、騎士達の治療のための薬を運ぶ必要もあった。



『皆に薬を渡すのは任せて!!私なら回復魔法も使えるし、一番役に立てると思うから!!』

『なら僕はモモちゃんの護衛を行うよ!!』

『ウォンッ!!』



白猫亭の聖女騎士団の救助はモモとリーナとビャクに任せ、この3人ならば警備兵の妨害を突破して白猫亭に薬を運び出すのも出来ると思われた。しかし、問題なのは闘技場の方であった。



『闘技場で姿を消したというドリス副団長とリン副団長を探しに行くのですか?』

『あの二人が簡単にやられるとは思えないし、それに闘技場なら人を匿う場所としては最適だ。あそこは普段は魔物を拘束するために厳重な警備体制が敷かれているはずだ』

『拙者の勘も闘技場が怪しいと思うでござる』

『忍者の勘は当たりそう』



闘技場に関してはアルトとクノの読みでは他の人間が捕まっている可能性が高く、同時に最も警備が高い場所だと思われた。それでも味方になりそうな者達を解放する事が出来れば一気に形成は逆転する。


闘技場へ向かう役目は戦闘力が高いナイは当然の事、ミイナとヒイロも向かう。アルトとクノは城壁の警備兵を釘付けにする役目があるため同行は出来ないが、隙を突いて逃げ出し、後でナイ達と合流する手はずだった。



『作戦は以上だ、皆……頑張ってくれ。武運を祈るよ』

『おうっ!!』



全員が力を合わせて今回の事態を乗り越える事を誓いあい、それぞれが行動を開始する。そしてこの中で一番危険な役目を担っていたのはナイであった――






――時刻は現在へと戻り、ナイは獣人族顔負けの跳躍力を発揮して建物の屋根の上を移動し、闘技場が存在する方角へと向かう。地上の人々は警戒に屋根の上を飛び回るナイを見て驚愕の表情を浮かべた。



「な、何だあいつ!?」

「うわっ、びっくりした!?」

「空を飛んでるぞ!?」

「誰だ、あれ!?」



凄まじい速度で屋根の上を跳び回るナイは注目を浴びている事に気付くが、ここでは敢えて「隠密」や「無音歩行」などの技能は使用しない。複数の技能を同時に発動させる事は体力を消耗し、出来る限りは余計な体力の消耗を抑えたかった。なにしろ闘技場ではどんな存在が待ち受けているのか分からず、油断は出来ないからである。



(よし、この調子なら二人にもすぐに追いつけるな……)



障害物に成りえる建物をナイは跳び越える事が出来るため、黒狼種であるクロとコクに乗り込んだヒイロとミイナに追いつくのも時間の問題だった。単純な移動速度は流石に黒狼種には劣るが、瞬間的な加速と障害物を跳び越えて移動できるという点では市街地の移動はナイの方が有利であった。


建物の屋根の上を駆け出し、瞬動術で別の建物へと乗り込む。しかし、あまりにも目立ち過ぎてしまったため、彼を狙う輩が現れた。



「シャアアッ!!」

「おっと……やっと現れたか」



跳んでいる最中にナイは何処からか飛んできた短剣を空中で身体をひねらせて回避すると、白面を纏った集団が現れ、ナイの後を追う。彼等も跳躍の技能を生かしてナイの後を追うが、それに対してナイは相手にもせずに移動に集中した。



「付いてこれるなら……付いてこいっ!!」

『シャアッ……!?』



助走を付けてナイは全速力で駆け出して跳躍を行うと、その移動速度と飛距離に白面は追いつく事が出来ず、一気に突き放す。それだけではなく、ナイは白面の集団が次の建物に飛び移る前に旋斧を引き抜き、風属性の魔力を刃に送り込む。



「はああっ!!」

『っ――!?』



魔法腕輪に装着した風属性の魔石から刃に魔力を流し込み、大振りする事で風圧を発生させる。まだ次の建物に飛び移る前に風圧を受けた白面の集団は体勢を崩し、次々と地上へ落ちていく。


王都の白面は獣人族で構成されており、多少の高い所から落ちても人間よりも頑丈な彼等ならば死ぬ事はないだろう。それを見越しての行動であり、彼等が落ちていくのを確認するとナイは旋斧を戻す。



(うん、絶好調だ)



昨日は碌に眠っていないが体調は万全であり、イーシャンの仙薬のお陰で体力は十分に回復し、今ならばどんな敵が現れても負ける気がしなかった。邪魔者をある程度は排除したナイは闘技場へ向かい、クロとコクに乗り込んだミイナとヒイロが到着する前に目的地へと辿り着いた。

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