第724話 誰が殺したのか?
「そういえば……前に飛行船に乗った時、あの坊主が捕まえた侵入者が全員始末されていたな。あの時の犯人は結局は見つけられなかったのか?」
「ええ、残念ながら……」
「飛行船から逃げ出した痕跡が残っていたとは聞いているが……」
王都から飛行船でイチノへ向かう途中、闇ギルドから送り込まれた刺客は船を爆破させようとした時、偶然にも乗り合わせていたヒナとモモに見つかってしまう。この刺客の存在はアッシュは事前に見抜いていたので難なく捕縛できた。
その夜、捕縛した侵入者を始末するために変装の技能で騎士に化けていた別の侵入者達は、偶然にも侵入者を閉じ込めた部屋の中に入ろうとした場面を目撃したナイによって捕まってしまう。
だが、捕獲した4人の侵入者は何者かの手で殺され、現在も犯人は見つかっていない。殺害現場の近くで侵入者が外に逃げたと思われる痕跡は残っていたが、肝心の犯人の手掛かりはなかった。
「もしも……もしもの話だが、あの時の侵入者が外に逃げていなかった場合、飛行船内にまだ敵が居たのかもしれないな」
「えっ!?」
「それは……ないだろう。飛行船の中は私達も隈なく探し回ったが、侵入者は発見されなかった」
「確かに侵入者は見つからんかった。だが……敵の正体が侵入者ではなく、あの時に同行していた人間の中に居たとしたらどうする?」
ハマーンの言葉にドリスとリンは歩みを止め、彼に振り返る。ハマーンは神妙な表情を浮かべ、あの時の討伐隊の中に裏切り者がいた可能性を失念していた。
「あの4人を殺した犯人が仮に討伐隊の中の誰かだった場合、可能性が高いのはあの4人が掴まっている部屋に自由に出入りできる人間のみ。つまり、当然だが坊主たちや冒険者は除外される。そして坊主たち以外であの部屋に出入りできるとしたら……王国騎士だけであろう」
「ま、待ってください!!では、私達の中に裏切り者がいるというのですか!?」
「実際にリノ王女の命を狙ったのは銀狼騎士団の騎士と聞いているが?」
「それは……そうだが」
4人の侵入者が捕まった部屋に出入りできるのは王国騎士のみであり、討伐隊を指揮していたアッシュも出入りは出来るだろうが、彼は船内に居る時はハマーンとほぼ一緒に行動していた。
そもそもアッシュはリノが正体を明かす様に勧めた張本人であり、これはシンにとっては非常に都合が悪い展開だった。そんな彼がシンと繋がっている可能性は皆無に等しく、そうなるとナイ達や冒険者、それと同行していたハマーンの弟子たちを除くと侵入者を殺害した犯人は王国騎士の誰かとしか考えられない。
「銀狼騎士団の中に宰相と繋がっている騎士が居た以上、あの時に既に宰相と繋がっている王国騎士が居てもおかしくはない。問題なのはそれが誰かという事じゃ」
「……ハマーン殿、何が言いたい?」
「お主等の中に、いやお主等は裏切り者ではないと言い切れるのか!?」
「そ、そんな!?私達を疑っているんですの!?」
ハマーンは距離を取ると、ドリスとリンに対して鉄槌を構える。その彼の態度にドリスは慌てふためき、その一方でリンも合点がいった表情を浮かべた。
「なるほど、確かにあの時に王国騎士の中に宰相と繋がっている人間が居たからこそ、空賊に連絡を送って飛行船の居場所が知られたのか……納得した」
「リンさん、納得している場合ですか!?私達が疑われているんですのよ!?」
「落ち着け、今は争っている場合じゃない……ハマーン殿、私達を疑う気持ちは分かるが、今は私達の事を信じてくれ」
「儂としても店の上客を失いたくはない……だが、信用しようにもお主等が裏切り者ではないという証拠がなければ話にならんぞ」
「しょ、証拠と言われましても……」
飛行船に乗り込んだ王国騎士の中にはドリスとリンも当然含まれ、彼女達が侵入者を殺していない証拠を出せと言われても困る。ハマーンからすれば怪しいのは既に裏切り者が現れた銀狼騎士団の副団長であるリンだが、彼女は決してリノを裏切ったりはしない。
リンとしてはハマーンの推理が間違っているとは思えず、だからといってドリスが暗殺などという騎士にあるまじき行為をするはずがないと信じていた。しかし、飛行船に乗り込んだ騎士の中に裏切り者が居ると言われても見当もつかない。
(裏切り者……本当に手がかりは残っていないのか?)
飛行船に乗り合わせた王国騎士達の顔を思い返し、容疑者が多すぎてリンでは判断がつかない。だが、考えている間にも時間は過ぎてしまい、このままだと闘技場を調べているうちに街中に現れた白面による被害が増す。
「ハマーン殿、悪いが今の私達では裏切り者ではない証拠は持ち合わせていない。だから私達を信用できないというのであればこのまま去ってくれても構わない」
「リンさん!?」
「ほう……本当にそれでいいのか?」
「ああ……正直、疑われるのも仕方ないと思うが、こちらも裏切り者かもしれないと思われて行動されると気分が悪い。ここは私とドリスだけで十分だ。貴方はもう戻ってくれ」
「ふむ……」
リンの言葉を聞いてハマーンは考え込み、やがて彼は手にしていた鉄槌を下ろすと溜息を吐きながら二人に告げる。
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