第707話 マホの予感

「……いない人間を頼っても仕方あるまい、儂の事は良いからお主等は行くがいい」

「し、しかし老師!!もしも白面がここへ乗り込めば……」

「安心せい、その時はその娘っ子たちが儂を守ってくれる」

「うえっ!?あ、あたし達が!?」

「私もっ!?」



エルマの言葉にエリナは驚愕の表情を浮かべ、ヒナも自分も含まれているのかと戸惑う。確かにエリナは聖女騎士団の見習とはいえ王国騎士の一員であり、ヒナも一般人と比べれば高い実力を持つ。しかし、白面の暗殺者が相手となると分が悪い。


だが、マホは自分のせいで弟子たちに迷惑をかけるわけにもいかず、師として弟子たちに命令する。白面を放置すれば更に被害は広がり、それを無視するわけにはいかない。



「これは他の身ではない、命令じゃ……お主等は力を合わせ、白面とやらを退治せよ」

「老師!!」

「ですが……」

「……わがまま言ってんじゃねえっ!!」



マホの言葉を聞いてゴンザレスとエルマは彼女を守るために残ろうとしたが、そんな二人にガロが怒鳴りつける。彼の言葉に二人は驚き、マホでさえも意外そうな表情を浮かべた。


ガロはマホに対して苦痛を堪える様な表情を浮かべ、本音を言えばガロもマホの身が心配だった。しかし、ここでマホの言う事を聞かない事の方が彼女を苦しめる事は理解していた。



「行くぞ、お前等……老師の命令だ!!」

「ガ、ガロ……」

「本気で言っているのか……老師を見捨てるのか!?」

「ふざけんじゃねえっ!!誰が見捨てるかよ……白面なんざ、とっととぶっ倒して、それでさっさと戻ってくればいいだけの話だろうがっ!!」

「ガロ……」



ゴンザレスはガロの言葉に激昂するが、その彼以上の気迫でガロは怒鳴りつける。あまりの気迫にマホでさえも呆気に取られ、やがて彼女は口元に笑みを浮かべる。知らない間に自分の弟子がたくましく成長していた事に喜びさえも感じる。



「……ガロ、お主に託したい物がある」

「えっ……?」

「エルマ、あの双剣をガロに……」

「えっ!?し、しかしあれは……!!」

「いいから、早く渡せ」



マホの言葉にエルマは戸惑うが、彼女に言われてエルマは自分が背負っていたマホの鞄を取り出す。マホの所持する鞄がアルトも所持する「収納鞄ストレージバック」と呼ばれる魔道具と同じ代物であり、この鞄は異空間と繋がっていて制限重量内ならどんな物でも預ける事が出来る。


鞄の中に手を伸ばしたエルマは緊張した面持ちで青色と赤色に光り輝く美しい双剣を取り出し、それを見た者達はあまりの美しさに圧倒される。マホはガロに顔を向け、この二つの魔剣の名前を告げた。



「この魔剣は「氷華」と「炎華」……お主も名前ぐらいは聞いた事があるじゃろう?」

「氷華に炎華……だと!?」

「そう、あの伝説の双魔剣……聖女騎士団初代団長が扱っていた魔剣じゃ」

「ま、まさか……!?」

「凄い綺麗っす……」



氷華と炎華の存在はこの場に存在する者どころか、恐らくは王都に暮らす剣士ならば誰もが知っている。あの最強の王国騎士団を率いていた「ジャンヌ」が所有していた魔剣であり、彼女以外にこの二つの魔剣を操れる人間はいないとさえ言われた代物である。


ジャンヌの死後に二つの魔剣は国王の願いで彼女の墓標に飾られていたが、それをマホが回収し、彼女が一時的に預かっていた。本来は国中の剣士を集め、誰がこの魔剣を持つのに相応しいのか見極める予定だったが、現在は贅沢は言っていられず、マホはガロに一時的に託す。



「ガロ、お主の力量ではその二つの魔剣を扱いこなす事は出来ぬ。だが、その身に付けている鈍らよりは役に立つじゃろう」

「……は、はっきり言いやがるな」

「いいか、その魔剣の力を引き出そうとしてはならんぞ……下手をすればお主が死ぬかもしれん。それを承知した上でその魔剣を持っていけ……」

「上等だ……俺に使い為せない剣なんてないんだよ!!」



ガロは啖呵を切ると自分が身に付けていた双剣を床に捨て、震える腕で二つの魔剣を手にした。魔剣の能力を発動出来るかどうか所有者次第であり、彼は緊張した面持ちで魔剣を腰に装着する。



「ガロ、くれぐれも言っておくが……その魔剣の力を使ってはならぬ。いいか、絶対に使ってはならんぞ?」

「ちっ……分かってるよ」

「約束を破れば今度こそお主を破門する……よいな?」

「分かったよ……約束する」

「うむ、ではゴンザレスとエルマと共に頑張れ」

「老師……!!」

「……行きましょう、ゴンザレス。御二人とも、どうか老師の事をお願いします」

「は、はい!!」

「うぃっす!!」



魔剣を使用しない事をガロは約束し、最後にマホの手を掴む。それを見ていたエルマも遂に覚悟を決め、マホをヒナとエリナに任せてゴンザレスに声を掛ける。


ゴンザレスは最後までマホの傍を離れたくはない様子だったが、他の二人に促され、彼は覚悟を決めた様に頷く。目元から涙を流しながらもゴンザレスは立ち上がり、マホとガロと共に外に出向く――

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