閑話 〈闘技場の王〉

――闘技場に参加する選手の殆どは傭兵か冒険者であり、時には罪人を戦わせる事が多い。罪人の場合は犯罪を犯す前は武芸を嗜んでいた者だけを選出し、戦わせる。実際の所は戦わせるというよりも処刑に近く、彼等が勝つ事はない。


罪人を見世物にして戦わせるなど闘技場の経営者であるアッシュ公爵としては残忍過ぎると思われるが、これは闘技場を作り出す際の条件として加えられ、決して彼の本意ではない。


どうして犯罪者を戦わせるのかというと、それは人々に犯罪を犯した者の末路を見せつけるためである。また、罪人が試合に勝利した場合は減刑も考えられ、もしも勝ち続ければ何時の日かは外に出られるという希望も与える。




しかし、実際の所は闘技場が作り出されてから試合を勝ち残って生き残った罪人など一人もいない。その理由は罪人の場合は武器の使用が禁止され、生身の状態で敵と戦わなければならない。




普通の参加者ならばあり得ない試合条件なのだが、罪人の場合は容赦はしない。このため、罪人が試合を行う場合は一方的に彼等が魔物に殺される場面を見せつけられる。だからこそ罪人の試合の場合は席を立つ観客も多い。


血に飢えた一部の観客からは罪人が一方的に殺される場面は人気があるが、殆どの観客は罪人の試合など見る事も辛い。それでも罪人が戦う制度はなくなる事はなく、今日も彼等は魔物の餌と化すために戦わされる。



「ひいいっ!?い、嫌だぁっ!!」

「た、助けてくれぇっ!?」

「近づくなぁっ!!」



今日は数名の罪人が試合場に放たれ、彼等が相手をするのは最近の闘技場では最も人気が高い魔物だった。それは全身が鱗で覆われたトカゲと人間が合わさったような生物であり、種族名は「リザードマン」である。


リザードマンは試合場内で逃げ回る罪人に視線を向け、最初の内は何も行動を起こさずに様子を伺う。観衆はリザードマンが動かない事に不審に抱く。



「お、おい……またあいつ、動かないぞ」

「毎回、初めて戦う敵との試合はこうだな……最初の内は全く動かなくて、だけど急に動き出したら一方的に相手を叩きのめすんだ」

「観察して相手の正体を確かめているんだ……」



観衆は何度もリザードマンの試合を見せつけられ、行動を読み取っていた。やがてリザードンは罪人を観察するのを終えると、奇声を上げて動き出す。



「シャアアアアッ!!」

「ひいいっ!?」

「うわぁああっ!!」

「死にたくないっ!!助けて……ぎゃああっ!?」



試合は一瞬で終わり、動き出した瞬間にリザードマンは鋭い爪を振り払い、罪人の肉体を切り裂く。並の刃物よりも鋭い切れ味の爪で相手を切り裂き、更に詰め寄りも頑丈で鋭利な牙で敵を喰らいつくす。


その一方的な試合展開には知能えた観衆でさえも何も言えず、リザードンの勝利で試合は終了する。開始されてから数十秒足らずで試合は終了し、ここに新たな闘技場の王が誕生した――

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