閑話 《バッシュ》
――第一王子であるバッシュは自室にて座っていると、突如として窓が開け開かれ、何者かが音も立てずに入り込む。それに対してバッシュは特に警戒した様子もなく、入ってきた男を出迎えた。
「……シノビか」
「はっ……お呼びでしょうか」
バッシュの前に現れたのはリノ王女の側近であるシノビであり、彼は王子を前にすると跪く。その様子を見てバッシュは無表情のまま彼に告げる。
「必要以上に俺に気を遣うな。お前の主人は妹だろう」
「しかし……」
「俺は気にするなと言ったはずだ」
「……では、お言葉に甘えます」
主人以外の人間に膝を着くなどシノビとしても思う所はあり、バッシュの許可を得ると彼は立ち上がる。その様子を見てバッシュは頷き、彼の報告を受けた。
「それで、この俺が仮病までした以上は成果はあったのだろうな」
「はっ……こちらでございます」
バッシュは今日は風邪を患い、本日の業務を休んでいた。しかし、それは仮病であり実際の彼は風邪どころか病気すら掛かっていない。それでも仮病まで彼が部屋に休んだのには理由がある。
先日にバッシュは王都の戦力が飛行船でイチノに向かう間、ある人物が不審な行動を取っていた事を知る。バッシュの配下には優秀な部下が多く、その中には暗殺者も含まれていた。
暗殺者といえば言葉は物騒だが、別に彼等の仕事は暗殺を行うだけではなく、情報収集などの役割を持つ。時には間者として他国に出向き、情報を集める事もあるが、今回の場合は調査の対象は他の国ではなく、自国の人間になる。
将来はこの国を継ぐ者としてバッシュは内部の人間関係も把握しておく必要があり、彼はリノが連れてきたシノビと裏で通じて彼に王都内の人材の内部調査を行わせた。
「バッシュ王子の読み通り、やはりあの御方はどうやら裏の人間と接触しているそうです」
「……そうか」
シノビは巻物を取り出すと、この数日の間に調べ上げた裏社会の人間と関わりを持つ家臣の名前を書き連ねた報告書を差し出す。巻物を渡されたバッシュは眉をしかめるが、別に内容を確認出来るのならば問題はない。
「やはり、あの男が裏で繋がっていたか」
「王子……この者はリノの王女を疎ましく思っております。なので私はこれより王女の護衛に集中致します」
「ふっ……それは忠誠心からか?それとも……惚れた男の弱みか?」
「……失礼します」
バッシュの言葉にシノビは何も言い返さず、音を立てずに消え去る。外を出る時はご丁寧に窓まで閉めていくが、この時に少々荒っぽく窓は閉じて帰る。
内容を確認したバッシュは暖炉に巻物を放り込み、証拠を残さぬように燃やす。そして彼は窓の外に視線を向け、目つきを鋭くさせた。
「……この俺を舐めるなよ」
暖炉で燃えていく巻物の名前には彼が生まれる前からこの国に仕える重要な人物の名前が記されていた――
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