第627話 鋼の剣聖の実力

『つまらん』

「プギャッ――!?」



ゴウカは相対していたオークに近付くと、無造作に大剣を振り払う。それだけでオークの胴体が真っ二つに切り裂かれ、その攻撃を見たナイは目を見開く。



(早いっ!?)



あまりの攻撃速度にナイでさえも完全には見切れず、仮に常人が見ていた場合は一瞬にしてオークの肉体が真っ二つに切り裂かれたようにしか見えないだろう。


最後の1体を倒した3人の冒険者は一息つくと、ここでリーナとマリンは馬から下りる。マリンは口元に手を寄せ、一方でリーナの方はすぐにナイの元へ駆けつける。



「大丈夫!?ナイ君!!」

「リーナ……どうしてここに?」

「僕達、依頼を受けてきたんだよ。深淵の森の奥地にいる魔樹を討伐して樹石を回収してほしいって……」

「な、なるほど……冒険者にも既に依頼していたのですね」



リーナから話を聞いたエルマは納得し、既に誰かが冒険者に依頼をして樹石の回収を行おうとしていた事を知る。確かに冒険者に頼めば王国の戦力は落ちず、それに魔物の討伐の依頼ならば怪しまれる事はない。


すぐにナイは怪我を負った人間に回復魔法を施し、治療を行う。幸いにもビャクもゴンザレスも重傷という程ではなく、ナイの回復魔法を受けるとすぐに傷は治った。



「ビャク、ゴンザレス君……大丈夫?」

「ああ、もう治った。前の時よりも回復魔法の腕が上達したな」

「ウォンッ!!」

『ほう、少年は回復魔法も使えるのか!!それは凄いな!!』

「あ、そうだ。紹介するね、ナイ君!!この二人はね、僕の先輩の黄金冒険者のマリンさんとゴウカさんだよ!!」

『どうも、初めまして』

「え?あ、どうも……」



ゴウカは以前にも会ったが、マリンとはナイも初対面であり、改めて自己紹介を行う。ゴウカはナイとまかさここで会えるとは思わず、機嫌良さそうに語り掛ける。



『ふはははっ!!まさかこんな所で少年と会えるとはな、前の時はいきなりいなくなったからびっくりしたぞ!!』

「はあっ……すいません、ちょっと用事があったので」

『その用事というのはここへ来る事か?そもそもどうして少年がここにいる?この場所は立ち入り禁止区域だぞ?』

『本来ならば許可を得ていない人は近づく事も禁止されている場所……どうして3人はここに?』

「えっと、それは……」



ナイは困ったようにエルマに顔を見せると、彼女はマホが倒れた事は公表するわけには行かず、本当の理由を話せない事を示すために首を振る。どうやらリーナ達は王国側から依頼を受けたようだが、樹石が必要な理由までは知らないらしい。


深淵の森の付近は一般人が立ち寄る事は禁じられており、普通ならばナイ達もここに居る事自体が問題がある。しかし、ここでナイはメダルの事を思い出し、アッシュ侯爵家とフレア公爵家のメダルを取り出す。



「……このメダルがあれば大抵の場所は出入り出来ると聞いていたんですけど」

「えっ!?それって僕の家の……」

『おおっ!!貴族のメダルを持っていたのか!!それは珍しいな!!』

『しかも二つとも公爵家のメダル……!?』

「何!?そんなの物まで持っていたのか……」

「す、凄い……私でも持っていないのに」



メダルを取り出したナイを見て他の者達は明らかに動揺し、特にリーナは自分の公爵家のメダルを所持している事に驚く。しかし、この二つのメダルによってナイは危険区域に立ち寄る事は出来るはずだった。


貴族のメダルを持つ事が許されるのは貴族と深い関係の人間だけであり、しかも相手が公爵家の場合となると話は別である。このメダルは王国の街や都市の通行許可証としての役割以外にも危険区域などの一般人が立ち寄れない場所であろうと入る事が許される。


最もナイはメダルを所持していれば危険区域にも入れるとは知らず、適当に誤魔化そうとしたのだが思いの他に公爵家のメダルは影響力があるらしく、他の者は納得したように頷く。



「そのメダルを持っているという事は……御父さんに認められたんだね!!凄いよナイ君!!あのお父さんが他の人にメダルをあげるなんて初めてかもしれない!!」

『アッシュ公爵に認められる実力者なら、危険区域の出入りを許可されてもおかしくはない』

『ふははっ!!やはり少年は只者ではなかった!!どうだ、俺と試合しないか!?』

「いや、あの……すいませんけど、先を急いでるんです。僕達も樹石を手に入れないといけませんから……ねえ?」

「あ、ああ……」

「そうですね、私達も樹石が必要なんです」



メダルのお陰でどうにか誤魔化す事に成功すると、ナイはリーナ達と同じく自分達も樹石が必要である事を話す。詳しい理由を話せないが、その話を聞いたリーナは自分達と行動を共にするように提案した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る