第615話 両国の関係

「まあ、当然と言えば当然の反応ですよね。獣人国からすれば十数年も自分達を騙していたわけですし……」

「う〜ん……」

「でも、気になるのは温厚なはずの国王が騙されていたとはいえ、使者を強制的に送り返してきた点です。それに国境の警備を行うロラン団長から報告が届いたんですが、どうやら獣人国の方で内部争いが起きているそうです」

「内部争い?」



イリアによると国境を守護する猛虎騎士団のロランは獣人国に間者を送り込み、国内の様子を調べさせたところ、最近では現国王とその弟二人が対立し、内戦が勃発するのではないかと民衆の間に噂が広がっているという。



「獣人国の国王は穏健派で王国とは友好的な関係を築こうとしているようですが、弟の一人は好戦的な性格で王国に対して先王の時代から幾度も戦を仕掛ける様に進言していたそうです。末の弟の方は権力争いにはこれまで積極的に関わってはいませんでしたが、実はこの弟がリノ王女の結婚相手になる王子だったんですよ」

「えっ!?ちょっと待って、リノ王子が子供の頃に30才だった人だよね?なら、今は50才近くじゃないの!?」

「その通りですね。ちなみに現在の国王の年齢は60才です。他の弟は双子なので確か48か49ぐらいですね。ちなみに子供が居るのは末の王子以外は子供がいますが、孫まで居るのは国王だけです」



現在の国王には実子が1人と孫が1人存在し、この息子が皇太子であり、将来的には獣人国を継ぐ。仮に皇太子に何かあったとしても彼の子供が王になるはずだった。


二番目の弟も子供はいるが全員が女性であり、そのせいもあって先王は第二王子ではなく、第一王子に王位を継がせた。しかし、末の弟に関しては幾度も結婚しているが、全員別れており、子供には恵まれなかった。



「表向きは現国王が獣人国を取り仕切っていますが、第二王子は大将軍の娘と結婚しています。だから大将軍と結託し、王位を奪うつもりではないかと民衆の間に噂になっています」

「大将軍の娘と……けど、どうして第三王子だけは結婚を繰り返しているの?」

「第三王子は女好きで有名なんですよ。若い頃は王子という身分を理由で遊んでばかりだったそうです。ですけど、ある時に王子に捨てられた女の復讐にあい……子供が作れない身体にされました」

「えっ……」

「丁度その時ぐらいのはずですよ、先王が第三王子を国王の子供と結婚させようとしたのは……まあ、結局は縁談は中止されて王子は自分の捨てた女にとんでもない目に遭わされて世継ぎを作れない身体にされたんです」

「な、何をされたんだろう……」



第三王子に関しては日頃の問題もあり、先王としては王国との関係を保つための道具程度にしか思われておらず、しかも目論見が失敗すると国王はすぐに第一王子に自分の跡を継がせた。



「先王は第三王子を役に立たないと判断し、第二王子も子供が女性しか恵まれなかった事から第一王子を王位を譲ったんです。そして現在になって過激派の第二王子と、王国から騙された第三王子が手を組んで内乱を起こそうとしているのではないかと疑われているわけです」

「へ、へえっ……」



まさかアルトの所に遊びに来ただけなのにとんでもない国の内情を聞かされたナイは焦り、今後この国がどうなるのか不安を抱く。これらの情報は魔導士の立場であるイリアだからこそ聞かされた話であり、城内の人間の中でもこの話を知っているのは数名しかいない。



「今現在の獣人国と王国の関係は崩れかけています。最悪の場合、戦争が勃発するかもしれませんね」

「戦争……」

「元々、獣人国は王国と比べても貧しいという程でもないですけど、決して豊かな国ではありません。獣人国がこれまでに王国に戦争を仕掛けてきたのは王国の広大肥沃な土地を狙っての行動です」

「そうなんだ……」



獣人国とは最も離れた辺境の地で生まれたナイは獣人国と王国の関係はよく知らないが、これまでに両国は幾度も領地争いを行い、ナイが生まれる前の時代は幾度も戦が起こしていた。


しかし、聖女騎士団などが台頭し始めた頃から獣人国は王国と対立する事を避けるようになり、友好的な関係を築こうと努めてきた。今では20年以上も戦は起きておらず、両国の民もこれ以上の争いなど望んではいない。


それでもリノ王女の一件で王国と獣人国の関係に罅が入った事は間違いなく、イリアはリノ王女の正体を晒すのは時期尚早だと考えていた。



「宰相は反対してたんですけどね、リノ王女の性別を今更明かす事は……でも、国王様が決行されたんです。これ以上に娘を苦しませる真似はしたくないと……」

「国王様はリノ王女の事が大事なんだね」

「それはそうですよ、国の都合のせいで女として生まれたのに男として振舞うような生き方をずっと強要させてきたんです。だから国王様は他の二人の王子よりもリノ王女を溺愛していたんですよ」

「ああ、だからか……」



ナイはイリアの言葉に納得し、国王はリノを溺愛していたからこそ王都の戦力を割いてまで飛行船で彼女が待つイチノまで送りつけた理由を知る。

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